この記事は、いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令・公的機関の情報を確認して作成しています。
「自宅は姪に残したい」
「葬儀は小さくしてほしい」
「預金口座はここにある」
「亡くなったらスマートフォンを解約してほしい」
どれも終活で残しておきたい内容ですが、同じ書類に書けばよいわけではありません。
エンディングノートと遺言書の違いについては、「エンディングノートには法的効力がなく、遺言書には法的効力がある」と説明されることが多くあります。
これは基本的にはそのとおりです。
ただ、おひとりさま終活では、それだけでは使い分けを決められません。
一つの希望の中にも、
「希望を伝える」
「法律上の効果を持たせる」
「実際に誰かに手続きをしてもらう」
という別の問題が含まれているからです。
この記事では、エンディングノートと遺言書を単純な二択にせず、どこから遺言書や別の契約が必要になるのかまで整理します。
結論|一つの希望を「伝える・決める・実行する」に分ける
まず、この3つを分けます。
| やりたいこと | 主に使うもの |
|---|---|
| 財産、連絡先、医療・介護、葬儀などの情報や希望を伝える | エンディングノート |
| 自宅や預金を誰に渡すかなど、死後の財産承継を法的に決める | 遺言書 |
| 遺言の内容を実現する手続きを進めてもらう | 遺言書で遺言執行者を指定することを検討 |
| 葬儀、納骨、契約解約、家財整理などを実際に頼む | 死後事務委任契約などを検討 |
| 判断能力低下後の財産管理などを任せる | 任意後見契約などを検討 |
例えば、
「姪に自宅を残したい」
という希望だけでも、一つの書類で全部を済ませるとは限りません。
エンディングノートには、なぜ姪に残したいのか、自宅の書類がどこにあるのかを書けます。
自宅を姪へ承継させることを法律上明確にしたいのであれば、遺言書を検討します。
さらに、その遺言内容に沿って手続きを進める人まで決めたいのであれば、遺言執行者についても考えます。
「何を書くか」だけでなく、「その後、誰が何をするのか」まで分けるのがおひとりさまの使い分けです。
エンディングノートは「知ってもらうための情報」を残す
法務局は、エンディングノートを、自分に何かあったときに家族などが判断や手続きを進める際に必要な情報を残すためのノートとして案内しています。
決まった形式はありません。
例えば、次のような内容を残せます。
- 預金や証券を利用している金融機関
- 自宅や土地に関する情報
- 保険や借入れ
- 重要書類の保管場所
- 親族や知人の連絡先
- 医療や介護についての考え
- 葬儀やお墓についての希望
- ペットについての情報
- スマートフォンやインターネット契約
- 家族や友人へ伝えたいこと
おひとりさまの場合は、「何を希望するか」だけでなく、「必要な情報がどこにあるか」を残しておく意味が大きくなります。
本人が説明できなくなった後、預金口座や保険、自宅の書類などの存在そのものが分からなくなることがあるためです。
一方、一般的なエンディングノートは、法律上の遺言書を作ることを目的とした書類ではありません。
「友人に預金を全部渡したい」
「自宅は姪のものにしたい」
と書いても、その記載だけで財産の承継先を法的に確定できるわけではありません。
ここが遺言書へ移る境目です。
遺言書は「死後に法律上どうするか」を決める
遺言書は、法律で定められた方式に従って作成し、財産の承継などについて本人の意思を法的に残すために使います。
例えば、
- 自宅を特定の人へ承継させたい
- 預金を特定の人へ残したい
- 親族ではない友人へ財産を遺贈したい
- 団体へ財産を寄付したい
- 遺言内容を実行する遺言執行者を指定したい
といった場合です。
おひとりさまの場合、法律上の相続人と、自分が財産を残したい相手が一致しないことがあります。
独身で子どもがいなくても、親、兄弟姉妹、甥姪などが相続人になる場合があるためです。
例えば、
「姪には世話になっているので自宅を渡したい」
という場合でも、姪が当然にその自宅を取得できるとは限りません。
誰が法律上の相続人になるのかを確認したうえで、希望と法律上の相続が異なるなら遺言書を検討します。
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「同じ内容を両方に書く」だけでは使い分けにならない
エンディングノートと遺言書は、同じ内容が登場することがあります。
しかし、役割は同じではありません。
例えば、自宅について次のように分けます。
| 内容 | エンディングノート | 遺言書 |
|---|---|---|
| 自宅の所在地 | 情報として記載 | 財産を特定するため必要に応じて記載 |
| 登記書類の保管場所 | 記載する | 通常は目的ではない |
| 姪に自宅を残したい理由 | 自由に書ける | 必要に応じて付言等を検討 |
| 姪に自宅を承継させる | 希望として書く | 法的に実現したい場合に検討 |
| 誰が遺言内容を実行するか | 希望は書ける | 遺言執行者を指定できる |
預金でも同じです。
「○○銀行に口座がある」という情報はエンディングノート向きです。
「○○銀行の預金を友人Aへ遺贈する」という財産の行き先は遺言書で検討します。
つまり、財産だからすべて遺言書、生活情報だからすべてエンディングノート、という分け方ではありません。
同じ財産についても、
現在の情報を伝える部分
本人の気持ちを伝える部分
法律上の効果を持たせる部分
を分けます。
おひとりさまでは「実行してほしい」が第三の問題になる
ここが、エンディングノートと遺言書を比較するだけでは見落としやすい部分です。
例えば、
「葬儀は小さくしてほしい」
という希望なら、エンディングノートへ書いて伝えることができます。
しかし、おひとりさまで実際に葬儀社へ連絡する人がいなければ、希望を書くだけでは葬儀は進みません。
「亡くなったらスマートフォンを解約してほしい」
「賃貸住宅を片付けてほしい」
「納骨までお願いしたい」
という希望も同じです。
誰かに知ってもらうことと、その人に正式に手続きを依頼しておくことは別です。
このような死後の生活上の事務を特定の人や事業者へ依頼する場合は、死後事務委任契約などを検討します。
遺言書で遺言執行者を指定しても、葬儀、納骨、公共料金の解約、家財整理などをすべて当然に任せられるわけではありません。
遺言執行者は、遺言内容を実現するための手続きを行う人です。
そのため、
財産を誰へ渡すか
遺言を誰が実行するか
生活上の死後事務を誰がするか
を分けて考えます。
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死後事務委任契約とは?亡くなった後に頼めることと遺言書との違い
医療や認知症への備えは遺言書へ移せばよいわけではない
もう一つ注意したいのが、生前のことです。
例えば、
「延命治療についてはこう考えている」
「できれば自宅で生活したい」
「認知症になったら預金管理をこの人に任せたい」
といった内容があります。
医療や介護について自分の考えを伝えるために、エンディングノートを使うことはできます。
しかし、財産管理などについて「この人に任せたい」と書いただけで、相手に代理権が生じるわけではありません。
また、遺言書は本人が亡くなった後の法律関係に備えるものなので、判断能力が低下した後の生前の財産管理を遺言書で解決するものでもありません。
判断能力があるうちに将来の支援者を決める必要がある場合は、任意後見契約など別の仕組みを検討します。
つまり、
エンディングノートか
遺言書か
の二択ではない場面があります。
これを先に理解しておくと、エンディングノートへ何でも書いて安心してしまったり、反対に遺言書を作れば終活が全部終わると考えたりするのを防げます。
エンディングノートと遺言書の内容が食い違わないようにする
二つを併用する場合は、同じ財産について違う希望を書かないようにします。
例えば、遺言書では、
「自宅を姪Aへ相続させる」
としているのに、後からエンディングノートだけを変更して、
「自宅は甥Bに渡したい」
と書くと、残された人は混乱します。
財産の承継について法的に変更したいのであれば、エンディングノートを書き換えるだけでなく、遺言書そのものを見直します。
反対に、エンディングノートには、
「財産の承継については遺言書を作成している」
「遺言書の保管については○○を確認」
というように、遺言書の存在へたどり着くための情報を残しておく方法があります。
財産を誰へ渡すかという結論を二つの書類へ重ねて書くより、
遺言書=法的に決める内容
エンディングノート=背景、連絡先、保管場所、その他の希望
と役割を分けた方が管理しやすくなります。
まずエンディングノートの内容を3つに仕分ける
すでにエンディングノートを書いている場合は、新しい書類をすぐ作る必要はありません。
まず書いた内容の横に、
「伝わればよい」
「法律上決めたい」
「実際に誰かへ頼みたい」
のどれに当たるかを書いてみます。
例えば、
| 書いてあること | 判断 |
|---|---|
| ○○銀行に預金がある | 伝わればよい |
| 自宅は友人Aに残したい | 法律上決めたい |
| 葬儀は簡素にしたい | まずは伝える |
| 葬儀の手配を友人Bへ頼みたい | 実際に頼めるか確認 |
| 死後に賃貸住宅を解約してほしい | 実行する人・契約を確認 |
| 判断能力低下後の預金管理を頼みたい | 生前の別制度を確認 |
「法律上決めたい」があれば、遺言書を検討します。
「実際に誰かへ頼みたい」があれば、その人が引き受けるのか、別の契約が必要なのかを確認します。
この仕分けをすると、自分の場合にエンディングノートだけで足りる部分と、次の準備へ進む部分を見つけられます。
なお、2026年6月には遺言制度の見直しを含む改正法が公布されています。押印の任意化等や、新たな保管証書遺言については、それぞれ政令で定める将来の施行日が予定されています。実際に遺言書を作成するときは、その時点で施行されている方式を法務省の最新案内で確認する必要があります。
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おひとりさまが認知症に備えるには?任意後見契約を分かりやすく解説
まとめ
エンディングノートと遺言書の違いは、法的効力の有無だけではありません。
終活で残したい一つの希望を、
伝えること
法律上決めること
誰かに実行してもらうこと
に分けて考えることが大切です。
情報や気持ちを伝えるならエンディングノート、財産の承継などを法的に決めるなら遺言書を検討します。
さらに、葬儀や納骨、契約の解約などを誰かに実際に行ってもらいたい場合や、判断能力低下後の財産管理を任せたい場合は、エンディングノートと遺言書だけでは足りないことがあります。
「何を書くか」ではなく、「書いた後に何が起きてほしいのか」で使い分けると、自分に必要な準備が見えてきます。
エンディングノートを書いた後、どこまで準備すればよいか迷う方へ
いしかわ行政書士事務所では、おひとりさま終活について全国オンラインでご相談いただけます。エンディングノートに書いた内容を確認し、遺言書へ移すべき部分、死後事務や任意後見など別に整理する部分を切り分けます。
行政書士が対応できる範囲で、相続人・財産の整理、遺言書の文案作成、公正証書遺言の準備、各種契約書の作成などを支援します。
「エンディングノートは書いたが、これで足りるのか分からない」という段階でご相談いただけます。
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出典
この記事は、2026年9月時点の法令・公的機関の情報をもとに作成しています。
札幌法務局「エンディングノート ~あなたに届け、わたしの想い~」
法務省「自筆証書遺言書保管制度について」
法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
法務省「高齢者等終身サポート事業者ガイドラインについて」
日本行政書士会連合会「遺言・相続」
