
この記事は行政書士が監修しています。
いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令や公的機関の情報、実務をもとに、制度や手続きのポイントを分かりやすく解説します。
おひとりさま終活を調べると、遺言書と死後事務委任契約という二つの準備が出てきます。
「遺言書を作れば、葬儀や自宅の片付けも頼めるのではないか」
「死後事務委任契約があれば、自宅や預金の行き先も決められるのではないか」
このように、役割の違いが分かりにくいと感じる方もいるでしょう。
結論として、すべての人に両方が必要なわけではありません。
財産を誰に渡すか決めたい場合は遺言書、葬儀・納骨・公共料金の解約などを誰かに頼みたい場合は死後事務委任契約を検討します。両方の希望がある方は、両方を準備する必要性が高くなります。
この記事では、遺言書と死後事務委任契約の違い、両方必要になるケース、どちらか一方で足りるケースを解説します。
遺言書と死後事務委任契約では決める内容が違います
遺言書と死後事務委任契約は、どちらも亡くなった後に関係する書類ですが、目的は異なります。
| 比較項目 | 遺言書 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 財産の引継ぎを決める | 死後の生活上の手続きを依頼する |
| 主な内容 | 自宅・預金・車などを誰に渡すか | 葬儀、納骨、解約、片付けなど |
| 相手 | 相続人、受遺者、遺言執行者 | 死後事務を引き受ける受任者 |
| 作成方法 | 法律上の方式に従って作成する | 本人と受任者が契約を結ぶ |
| 本人の死亡後 | 遺言内容に従って財産承継を進める | 契約で定めた事務を実行する |
遺言書で決める主なこと
遺言書は、主に財産の行き先を決めるための書類です。
たとえば、次のような内容を定めます。
- 自宅や土地を誰に引き継いでもらうか
- 預金を誰に渡すか
- 親族以外の人へ財産を遺贈するか
- 自宅を売却し、代金を誰に渡すか
- 財産を団体へ寄付するか
- 遺言内容を実行する遺言執行者を誰にするか
遺言書がなければ、原則として法律上の相続人が財産を引き継ぎます。
友人や内縁の相手、世話になった人は、親しい関係であっても自動的に相続人にはなりません。
死後事務委任契約で頼む主なこと
死後事務委任契約は、本人が亡くなった後に必要となる生活上の手続きを、事前に特定の人や事業者へ依頼する契約です。
依頼する内容として、次のようなものが考えられます。
- 親族や知人への連絡
- 葬儀や火葬に関する手配
- 納骨や永代供養に関する手続き
- 病院や施設の費用精算
- 電気・ガス・水道の解約
- 携帯電話やインターネットの解約
- 賃貸住宅の明渡しに関する手続き
- 自宅の鍵の管理
- 家財や遺品の整理に関する手配
- 行政機関などへの必要な届出
- ペットの引渡し
実際に依頼できる範囲は、契約内容、手続きを受け付ける事業者の規定、受任者の対応範囲によって異なります。
「死後のことをすべて任せる」と曖昧に書くのではなく、何をどこまで依頼するのかを契約書で具体的に決める必要があります。
両方必要な人と一方で足りる人
遺言書と死後事務委任契約の両方が必要かどうかは、財産の行き先と、死後の手続きを頼める人の有無から判断します。
両方を検討したいケース
次のような方は、遺言書と死後事務委任契約の両方を準備する必要性が高くなります。
- 親族以外の友人や世話になった人へ財産を残したい
- 特定の甥や姪へ自宅を残したい
- 兄弟姉妹には相続させたくない
- 自宅を売却し、代金を特定の人へ渡してほしい
- 葬儀や納骨を頼める親族がいない
- 自宅の片付けや公共料金の解約を頼める人がいない
- 法律上の相続人と長年疎遠になっている
- 相続人はいるが、死後の実務まで負担させたくない
たとえば、友人へ自宅を残し、自宅内の家財整理や公共料金の解約も別の事業者へ頼みたい場合です。
自宅の所有権を誰へ移すかは遺言書で決め、家財整理や解約手続きは死後事務委任契約で決めます。
遺言書だけで足りる可能性があるケース
次のような場合は、死後事務委任契約を結ばず、遺言書だけで足りる可能性があります。
- 財産を渡したい相手が法律上の相続人と異なる
- 自宅の取得者だけを明確に決めたい
- 親族が葬儀や解約手続きを行うことを了承している
- 死後の生活上の手続きを頼める親族がいる
- 相続人と連絡が取れ、関係も良好である
ただし、遺言書に「簡素な葬儀にしてほしい」「自宅を片付けてほしい」と書いても、それだけで特定の人に契約上の実行義務を負わせられるとは限りません。
確実に実行してほしい事務がある場合は、本人の承諾を得て、死後事務委任契約を検討します。
死後事務委任契約だけで足りる可能性があるケース
次のような場合は、遺言書を作らず、死後事務委任契約だけを検討することも考えられます。
- 法律上の相続人へ財産を渡すことに問題がない
- 財産の分け方は相続人へ任せてよい
- 親族以外へ財産を残す希望がない
- 自宅など分けにくい財産がない
- 葬儀や解約手続きだけを第三者へ頼みたい
ただし、死後事務委任契約だけでは、友人へ自宅を残したり、兄弟姉妹以外へ預金を渡したりする財産承継までは決められません。
財産の行き先を変えたい場合は、死後事務委任契約だけで済ませず、遺言書を別に作成する必要があります。
どちらも急いで必要ではないケース
法律上の相続人へ財産を渡すことに問題がなく、葬儀や死後の手続きを引き受ける親族も決まっている場合は、直ちに両方を作る必要性は高くないかもしれません。
ただし、口頭で「お願いする」と話しただけでは、相手がどこまで対応するつもりなのか分かりません。
少なくとも、次の内容は確認しておきます。
- 法律上の相続人は誰か
- 自宅や預金を誰に渡したいか
- 葬儀や納骨を誰が行うか
- 自宅の鍵を誰が管理するか
- 家財整理や解約を誰が行うか
- 必要な費用をどこから支払うか
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両方作る場合は役割・担当者・費用をつなげておく
遺言書と死後事務委任契約を両方作っても、内容がつながっていなければ、本人の死後に手続きが止まる可能性があります。
次の点を一緒に整理します。
遺言執行者と死後事務の受任者を決める
遺言執行者は、遺言書に書かれた財産承継を進める人です。
死後事務の受任者は、契約で依頼された葬儀、納骨、解約、片付けなどを行う人です。
同じ人へ依頼することも、別々の人へ依頼することもできます。
ただし、一人へすべてを任せる場合は、仕事量が多くなりすぎないか確認します。
別々の人へ依頼する場合は、次のような連携が必要です。
- どちらが最初に自宅へ入るか
- 自宅の鍵を誰が管理するか
- 財産関係の書類を誰へ渡すか
- 家財を片付ける前に何を確認するか
- 相続財産と処分してよい物を誰が分けるか
- 費用を誰がどの財産から支払うか
死後事務の受任者が、預金や貴重品を相続人や遺言執行者の確認前に処分すると、問題になる可能性があります。
家財整理を始める前に、遺言執行者や相続人と情報を共有できる体制を決めておきます。
契約で依頼する事務を具体的に書く
死後事務委任契約では、依頼内容を具体的にします。
たとえば、単に「葬儀を行う」とするのではなく、次のような内容を確認します。
- 葬儀の規模
- 火葬や納骨の方法
- 連絡してほしい人
- 費用の上限
- 依頼する葬儀会社
- 遺骨の引取先
- 対応できない場合の代替方法
公共料金や携帯電話の解約も、契約書があれば必ず受任者だけで手続きできるとは限りません。
各事業者が求める書類や受付条件を確認し、実際に履行できる事務だけを契約へ入れます。
死後も契約が続くことを明確にする
一般の委任契約は、本人の死亡によって終了するのが原則です。
死後事務委任契約では、本人が死亡した後も契約が終了せず、受任者が契約内容を実行することを明確にしておく必要があります。
契約名だけを「死後事務委任契約」として終わらせず、死亡後の効力、受任者の権限、相続人との関係を具体的に定めます。
費用の準備方法を決める
死後事務には、受任者への報酬だけでなく、次のような費用がかかります。
- 葬儀や火葬の費用
- 納骨や永代供養の費用
- 病院や施設の未払金
- 家財整理の費用
- 公共料金などの精算
- 自宅の管理費用
- 郵送費や交通費
- 専門家へ依頼する費用
本人の死亡後は、預金口座がすぐに自由に使えるとは限りません。
必要費用をどのように確保するか、誰が一時的に支払うか、余った資金を誰へ返すかまで決めておきます。
事業者へ費用を事前に預ける場合は、事業者自身の資金と分けて管理されるか、定期的な報告があるか、事業者が廃業した場合にどうなるかも確認します。
よくある失敗は二つの書類の役割を混ぜること
遺言書と死後事務委任契約では、次のような勘違いが起こりやすくなります。
遺言書に葬儀の希望を書けば必ず実行されると思っている
遺言書に葬儀や納骨の希望を書くことはできます。
しかし、財産の承継とは異なり、その記載だけで特定の人へ契約上の実行義務を負わせられるとは限りません。
確実に頼みたい場合は、相手の承諾を得て、契約内容と費用を決めます。
死後事務委任契約で自宅の取得者も決められると思っている
死後事務委任契約で、自宅の片付けや鍵の管理を依頼することは考えられます。
一方、自宅を誰が相続するか、誰へ遺贈するかは、原則として遺言書など財産承継の準備で決めます。
死後事務の受任者へ、自宅を当然に取得させることはできません。
自宅の売却を死後事務として簡単に頼んでいる
自宅を売却するには、誰が所有権を取得するのか、誰が売却権限を持つのかを整理する必要があります。
「死後事務の受任者が自宅を売り、代金を分ける」と契約書へ書くだけでは、実際の所有権移転や売却手続きを進められない可能性があります。
自宅の承継や売却は遺言書と遺言執行者、登記を担当する司法書士、不動産会社などの役割を含めて設計します。
遺言執行者へ死後事務も当然に頼めると思っている
遺言執行者の中心的な役割は、遺言内容に沿って財産承継を進めることです。
葬儀、納骨、電気・ガス・水道の解約、家財整理まで当然に含まれるわけではありません。
同じ人へ両方を頼む場合でも、遺言執行と死後事務を分けて依頼内容を定めます。
死後事務を行う人へ財産も残せばよいと安易に考えている
死後事務を行う事業者へ、報酬とは別に財産を遺贈する場合は、利益相反や本人の真意について問題になる可能性があります。
サービスを受ける条件として事業者へ財産を渡す契約になっていないか、報酬と遺贈の関係が不明確になっていないかを慎重に確認します。
死後事務の費用と、感謝のために残す財産は分けて考えることが大切です。
契約を結んだ事業者が将来も存続すると考えている
死後事務委任契約は、契約から実行まで長い期間が空くことがあります。
個人の受任者が先に亡くなる場合や、事業者が廃業する可能性もあります。
次の内容を確認しておきます。
- 受任者が対応できなくなった場合の引継ぎ先
- 契約内容を定期的に確認する方法
- 預けた費用の管理方法
- 解約や変更の条件
- 事業者の連絡先や体制
- 実行先との連携状況
どちらが必要か迷ったときの確認順序
遺言書と死後事務委任契約のどちらが必要か迷った場合は、契約名から選ぶのではなく、次の順番で整理します。
1.財産を誰に渡したいか
法律上の相続人と、実際に財産を渡したい人が同じか確認します。
違う場合や、自宅を特定の一人へ残したい場合は、遺言書を検討します。
2.亡くなった後に必要な作業を書き出す
葬儀、納骨、自宅の鍵、家財整理、公共料金、携帯電話、ペットなど、本人の死後に必要となる作業を書き出します。
3.各作業を頼める人がいるか確認する
親族、友人、専門家、事業者など、誰がどこまで引き受けられるか確認します。
名前を書くだけでなく、本人の承諾を得ます。
4.遺言執行と死後事務を分ける
財産承継を進める人と、生活上の手続きを行う人を分けて考えます。
同じ人へ頼む場合でも、役割と費用を明確にします。
5.実行費用と見直し方法を決める
死後事務に必要な金額、支払方法、余った資金の扱いを決めます。
財産、受任者、本人の希望に変化があったときは、遺言書と契約書の両方を見直します。
まとめ
遺言書と死後事務委任契約は、どちらも亡くなった後に関係しますが、役割は異なります。
遺言書は、自宅・預金・車などの財産を誰に引き継ぐかを決めるための書類です。
死後事務委任契約は、葬儀、納骨、公共料金の解約、家財整理など、亡くなった後の生活上の手続きを誰に頼むかを決める契約です。
次のような方は、両方を検討する必要性が高くなります。
- 親族以外の人へ財産を残したい
- 特定の人へ自宅を残したい
- 兄弟姉妹には相続させたくない
- 葬儀や納骨を頼める親族がいない
- 自宅の片付けや解約手続きを頼める人がいない
- 相続人と長年疎遠になっている
両方を作る場合は、遺言執行者と死後事務の受任者、鍵や書類の引渡し、家財整理の開始時期、費用の支払方法までつなげておくことが大切です。
まずは、「誰に財産を渡したいか」と「亡くなった後に誰に何を頼みたいか」を分けて書き出してみましょう。
おひとりさまの遺言書・死後事務の準備について
いしかわ行政書士事務所では、愛知県三河地域(碧南市・西尾市・高浜市・安城市・刈谷市・岡崎市など)を中心に、おひとりさまの遺言書や死後事務に関するご相談に対応しています。
相続人、自宅・土地・預金などの財産、亡くなった後に必要となる手続きを整理し、遺言書と死後事務委任契約のどちらが必要かを確認します。
当事務所が死後事務そのものを継続して実行するのではなく、契約書の作成や内容整理を行い、実際の死後事務を担う機関や事業者と連携する形で進めます。
不動産登記、税金、相続人との争いなどが関係する場合は、司法書士、税理士、弁護士など、それぞれを担当する専門家へつなぎます。
「遺言書だけで足りるのか分からない」「死後の片付けを頼める人がいない」という段階でもご相談いただけます。

