
この記事は行政書士が監修しています。
いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令や公的機関の情報、実務をもとに、制度や手続きのポイントを分かりやすく解説します。
巡回指導では、点呼記録簿や運転日報だけでなく、事故が起きたときの記録、苦情への対応状況、アルコール検知器を使った確認も見られます。
ただし、3つを同じ種類の帳票として考えてはいけません。
事故記録には法令上の記載事項と3年間の保存義務があります。アルコールチェックは点呼の一部として記録し、点呼記録を1年間保存します。
一方、一般貨物自動車運送事業者の苦情処理簿については、事故記録と同じような一律の法定保存期間が定められている帳票ではありません。それでも、危険運転や荷扱いなどの苦情を受けた場合は、事実確認と再発防止の経過を残しておく必要があります。
巡回指導で確認される安全管理記録とは
安全管理に関する主な記録は次のとおりです。
| 記録・資料 | 主に確認される内容 | 保存・管理 |
|---|---|---|
| 事故記録 | 発生日時、場所、事故概要、原因、再発防止策 | 営業所で3年間保存 |
| 自動車事故報告書 | 報告対象事故について期限内に提出したか | 提出控えを保管 |
| 苦情処理記録 | 苦情内容、事実確認、対応、運転者への指導、再発防止 | 社内で期間を決めて継続管理 |
| 点呼記録簿 | アルコール検知器の使用、酒気帯びの有無、点呼実施者など | 1年間保存 |
| 検知器の管理資料 | 電源、損傷、正常作動、交換・修理の状況 | 点検状況を説明できるよう管理 |
巡回指導前には、帳票が存在するかだけでなく、事故や苦情をその後の指導・教育へ反映しているか確認します。
例えば、事故記録に「安全教育を実施した」と記載しているのに、指導記録や受講者名簿が残っていない場合は、再発防止策を実施したことを確認できません。
事故記録は巡回指導で確認される?保存と管理のポイント
事業用自動車に事故が発生した場合、運送会社は事故に関する記録を作成し、その車両の運行を管理する営業所で3年間保存しなければなりません。
主な記録事項は次のとおりです。
- 運転者の氏名
- 事業用自動車の登録番号
- 事故が発生した日時
- 事故が発生した場所
- 事故の当事者や死傷者など
- 事故の概要
- 事故の原因
- 再発防止対策
事故がなかった期間について、架空の事故記録を作る必要はありません。ただし、事故がなかったことを巡回指導時に説明できるよう、事故の受付担当者や社内報告の流れを決めておくと確認がスムーズです。
事故が発生している場合は、事故記録だけを用意するのではなく、次の資料も同じ事故ごとにまとめます。
- 警察や保険会社へ提出した資料
- ドライブレコーダーの映像や確認結果
- 運転日報
- 点呼記録簿
- 運行記録計の記録
- 運転者への指導記録
- 適性診断の受診記録
- 社内で決めた再発防止策
- 自動車事故報告書の提出控え
事故記録には再発防止策まで記載します。「注意した」「安全運転を指導した」だけでは、何を改善したのか分かりません。
例えば、事故原因に応じて、交差点での確認方法、後退時の誘導、車間距離、荷崩れ防止、点呼時の体調確認など、実際に変更した内容を記録します。
事故記録と自動車事故報告書は別の書類
社内で作成する事故記録と、国土交通大臣へ提出する自動車事故報告書は別のものです。
| 比較項目 | 事故記録 | 自動車事故報告書 |
|---|---|---|
| 目的 | 事故の経過と再発防止策を社内で記録する | 規則で定められた事故を国へ報告する |
| 対象 | 事業用自動車に係る事故 | 自動車事故報告規則に該当する事故 |
| 提出 | 原則として社内保存 | 管轄運輸支局を経由して提出 |
| 期限・保存 | 3年間保存 | 原則として事故発生日から30日以内に提出 |
自動車事故報告規則の対象となるのは、死者・重傷者が発生した事故、転覆・転落・火災、一定の車両故障、酒気帯び運転を伴う事故などです。
特に重大な事故については、30日以内の書面提出とは別に、24時間以内のできる限り速やかな速報が必要です。
事故記録を作成しただけで、自動車事故報告書の提出義務を果たしたことにはなりません。事故が発生したときは、社内記録の対象かだけでなく、事故報告や速報の対象にも該当しないか確認してください。
苦情処理記録は必要?巡回指導で確認される管理書類
一般貨物自動車運送事業者の苦情処理簿については、事故記録のように全国一律の法定記載事項や保存期間が明確に定められている帳票ではありません。
そのため、巡回指導で必ず同じ形式の苦情処理簿を提示するとは限りません。実際に必要な資料は、巡回指導の通知書や地方実施機関の案内を優先してください。
ただし、適正化事業実施機関は、貨物自動車運送事業に関する苦情を受け付け、事業者へ内容を通知して迅速な処理を求める業務を行っています。
危険運転、荷物の破損、配送時の対応、騒音、路上駐車などの苦情を受けた場合は、口頭で対応して終わらせず、次の内容を記録しておくと事実関係を説明できます。
- 苦情を受け付けた日時
- 申出人の氏名や連絡先
- 対象となった車両や運転者
- 発生日時と場所
- 苦情の具体的な内容
- 運転者や関係者へ確認した結果
- ドライブレコーダーなどを確認した結果
- 申出人へ回答した内容
- 運転者に行った指導
- 再発防止のために変更した運用
- 対応を完了した日
申出人の話だけで運転者の責任を決めるのではなく、運転日報、車両位置情報、ドライブレコーダー、運行指示などと照合します。
苦情処理簿の保存期間は、保険対応や取引先との契約、個人情報の管理方針も踏まえ、社内規程で決めてください。保存期間を決めず、担当者の判断で削除する運用は避けます。
アルコールチェック記録は巡回指導で見られる?管理の注意点
運送会社は、業務前・業務後・中間点呼で酒気帯びの有無を確認する際、目視などによる確認に加えてアルコール検知器を使用します。
点呼記録簿には、主に次の内容を残します。
- 点呼を行った日時
- 点呼を受けた運転者
- 点呼を行った人
- 点呼方法
- アルコール検知器を使用したか
- 酒気帯びがあったか
- 運転者に行った指示
- その他、点呼で確認した事項
アルコール検知器の測定数値自体は、法令上、点呼記録簿への記載が必須とされていません。「検知器使用の有無」と「酒気帯びの有無」を確認できる記録が必要です。
ただし、会社が数値を記録する運用を採用している場合は、空欄や不自然な連続数値がないか確認してください。
巡回指導前には、点呼記録簿と次の記録を照合します。
- 運転日報の出庫・帰庫時刻
- 出勤簿や勤怠システム
- 運行管理者・補助者の勤務表
- デジタルタコグラフの記録
- 遠隔地で点呼した場合の報告記録
点呼記録簿に「検知器使用」と記載されていても、その時間に検知器が故障していた、運転者へ携行させていなかった、点呼を行った人が勤務していなかった場合は、実態との食い違いを確認される可能性があります。
アルコール検知器を常時有効に保つための確認
アルコール検知器は、営業所ごとに備えるだけでなく、正常に作動し、故障がない状態に保たなければなりません。
国土交通省の解釈・運用では、次の確認が示されています。
毎日確認する事項は次のとおりです。
- 電源が確実に入るか
- 本体に損傷がないか
毎日確認することが望ましく、少なくとも1週間に1回以上確認する事項は次のとおりです。
- 酒気を帯びていない人が使用したときに反応しないか
- アルコールを含む液体などを使ったときに反応するか
法令上、検知器の毎日・毎週の点検結果を記録する義務までは定められていません。
それでも、誰がいつ確認したか分からない状態では、巡回指導時に「常時有効に保持していた」と説明しにくくなります。愛知県トラック協会の点呼記録簿にも、検知器の機能を確認する欄があります。
会社の運用として、次の内容を記録しておくと管理しやすくなります。
- 確認日
- 検知器の管理番号
- 電源と損傷の確認結果
- 正常作動の確認結果
- 確認した人
- センサー交換日や使用期限
- 故障、修理、交換の履歴
検知器が故障した場合に備え、予備機の保管場所と交換手順も決めておきます。故障した検知器を使ったことにして、点呼記録だけを作成してはいけません。
安全管理記録に不足が見つかった場合の整理方法
事故記録や点呼記録に不足が見つかっても、過去に実施していない確認や指導を、実施したように書き足してはいけません。
次の順に整理します。
- 本社、営業所、車庫、担当者のパソコンに記録が残っていないか調べる
- 実施済みで記載だけが不足しているのか、実施自体がなかったのかを分ける
- 運転日報、勤怠、運行記録計などから事実関係を確認する
- 現在から実施する管理方法と担当者を決める
- 不足した原因と改善内容を説明できるようにする
事故、苦情、アルコールチェックを別々に保管するだけでなく、その後の運転者教育や社内規程の見直しまでつなげてください。
よくある質問
- Q物損事故でも事故記録は必要ですか?
- A
自動車事故報告規則による国への報告対象にならない物損事故でも、事業用自動車に係る事故として、社内の事故記録を作成する必要があります。事故記録と国への事故報告を分けて判断してください。
- Q相手側に原因がある事故も記録しますか?
- A
自社の運転者が主な原因ではない事故でも、事業用自動車に係る事故であれば記録の対象となります。相手側に原因があることを含め、確認できた事実を記録します。
- Q苦情が一件もなければ苦情処理簿は必要ですか?
- A
架空の記録を作る必要はありません。ただし、苦情を受けたときの受付担当者、事実確認の方法、社内報告の流れは決めておきます。巡回指導の通知書に苦情関係資料が記載されている場合は、その指示を優先してください。
- Qアルコール検知器の測定数値は記録しなければなりませんか?
- A
国土交通省の案内では、測定数値まで点呼記録簿へ記載する必要はないとされています。アルコール検知器を使用したか、酒気帯びがあったかを記録します。
- Qアルコール検知器の点検簿は法定帳票ですか?
- A
検知器を常時有効に保つ義務はありますが、毎日・毎週の点検結果を記録することまでは義務付けられていません。ただし、点検状況や故障時の対応を説明するため、社内で記録を残す方法が実務上有効です。
- Q検知器が故障した日は点呼記録を後から作ればよいですか?
- A
実際に検知器を使用していないのに、使用した記録を作ってはいけません。故障を確認した時点で予備機へ交換し、故障、交換、点呼への影響を記録します。
まとめ
巡回指導前には、事故記録、苦情処理記録、アルコールチェックの結果を個別に確認します。
事故記録には、事故の概要、原因、再発防止策を記載し、営業所で3年間保存します。自動車事故報告規則に該当する事故は、社内記録とは別に、原則30日以内の事故報告や重大事故の速報が必要です。
苦情処理簿は事故記録と同じ一律の法定帳票ではありませんが、危険運転や荷扱いなどの苦情を受けた場合は、事実確認、回答、運転者への指導、再発防止策を残しておきます。
アルコールチェックでは、点呼記録簿に検知器使用の有無と酒気帯びの有無を記録します。数値の記載や検知器点検簿の作成自体は法令上の必須事項ではありませんが、検知器を正常に保っていたことを説明できる管理が必要です。
関連記事
巡回指導前に事故・苦情・点呼記録のつながりを整理します
事故記録、苦情処理記録、点呼記録簿が別々の場所に保管されていると、巡回指導の通知を受けてから短期間で照合するのは簡単ではありません。
いしかわ行政書士事務所では、現在の帳票と通知書を確認し、不足している記録、保存期間、事故報告の提出状況、点呼記録との食い違いを整理します。
碧南市・西尾市・高浜市・安城市・刈谷市・岡崎市を中心に、三河地域・愛知県内の運送会社からのご依頼に対応しています。
どの記録から確認すればよいか分からない場合は、巡回指導の通知書、事故関係資料、点呼記録簿、運転日報、現在使用しているアルコール検知器の管理資料をご用意のうえお問い合わせください。
お問い合わせはこちら
「運送業新規許可・許可後手続きのお問い合わせ」 ご依頼の流れや料金案内をしております。ご相談だけでも構いませんのでお気軽にお尋ねください
出典
e-Gov法令検索「貨物自動車運送事業輸送安全規則」
中国運輸局「自動車事故報告について」
国土交通省「自動車運送事業におけるアルコール検知器の使用について」
国土交通省「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」
愛知県トラック協会「点呼記録」、栃木県貨物自動車運送適正化事業実施機関「帳票類」
この記事は、2026年8月時点の法令および公的機関の案内をもとに作成しています。巡回指導で提示を求められる資料や対象期間は、通知内容、営業所の状況、地方実施機関の運用によって異なる場合があります。
