
この記事は行政書士が監修しています。
いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令や公的機関の情報、実務をもとに、制度や手続きのポイントを分かりやすく解説します。
「高齢になったため、運送会社を息子に引き継ぎたい」
「個人事業から法人に変えたい」
「仕事が減ったので、いったん運送業を休みたい」
このような場合、会社や車両の名義を変更するだけでは、運送業許可を引き継げないことがあります。
特に注意したいのは、個人事業主と設立した会社、親と子、譲渡する会社と譲り受ける会社は、それぞれ別の事業者として扱われる点です。
したがって、運送業をやめる・休む・別の事業者へ引き継ぐ場合は、次のうちどの手続きに該当するかを最初に判断しなければなりません。
- 廃止
- 休止
- 事業の譲渡譲受
- 合併または会社分割
- 個人事業の法人化
- 個人事業主が亡くなった場合の相続
選択を誤ると、後継者が営業できない期間が生じたり、改めて新規許可を取得しなければならなくなったりする可能性があります。
この記事では、愛知県で一般貨物自動車運送事業を営む事業者を想定し、それぞれの違い、手続きの順番、期限、引継ぎ前に確認する項目を解説します。
最初に「終了・一時停止・承継」のどれかを判断する
同じ「運送業をやめる」という話でも、経営者が何を希望しているかによって必要な手続きが変わります。
| 事業者の希望 | 基本となる手続き |
|---|---|
| 今後、運送業を再開する予定がない | 事業廃止の届出 |
| 一時的に営業を止め、条件が整えば再開したい | 事業休止の届出 |
| 運送事業全体を別の会社や個人へ引き継ぎたい | 譲渡譲受の認可 |
| 個人事業を設立した法人へ移したい | 原則として譲渡譲受の認可 |
| 許可会社が別会社に吸収合併される | 合併の認可 |
| 会社分割により運送事業を承継させる | 分割の認可 |
| 個人事業主が亡くなり、相続人が事業を続ける | 相続の認可 |
| 一部の営業所や車庫だけを閉鎖する | 事業計画変更などの手続き |
重要なのは、事業全体を終える場合と、一部の営業所・車庫・車両だけを廃止する場合では、手続きが異なることです。
中部運輸局の審査基準では、譲渡譲受の認可は事業の全部を譲渡する場合が対象とされ、一部譲渡は事業計画変更として扱われます。また、休止・廃止も事業全体を休止・廃止する場合の手続きであり、一部を閉鎖する場合は事業計画変更などを検討します。
運送業を完全にやめる場合は廃止届を提出する
将来も運送業を再開する予定がなく、事業を終了する場合は、事業廃止の届出を行います。
一般貨物自動車運送事業の休止・廃止は、実施予定日の30日前までに届け出る必要があります。会社を解散してから届け出るのではなく、廃止日から逆算して準備することが大切です。
廃止時には、運送事業の届出だけでなく、次の事項も整理しなければなりません。
- 緑ナンバー車両の名義変更や用途変更
- リース車両・ローン中の車両の取扱い
- 営業所・車庫・休憩睡眠施設の賃貸借契約
- 荷主との運送契約や未完了業務
- 運転者、運行管理者、整備管理者などの雇用関係
- 社会保険・労働保険・税務上の手続き
- 未提出の事業報告書や事業実績報告書
- 点呼記録、運転者台帳など保存義務のある帳票
- 事故や行政処分に関する未処理事項
廃止届を提出すれば、すべての手続きが自動的に終了するわけではありません。車両、従業員、契約、報告書を含めて、事業終了までの工程を組む必要があります。
後継者がいる場合は、先に廃止しない
息子や別会社に事業を引き継ぐ予定がある場合、現在の事業者が先に廃止届を提出するのは危険です。
先に廃止すると、引き継ぐべき運送事業がなくなり、後継者側で新規許可を取得しなければならない可能性があります。
事業承継を予定している場合は、廃止届を出す前に、譲渡譲受・合併・分割・相続のどれを利用できるか確認してください。
一時的に営業を止める場合は休止を検討する
資金繰り、荷主の減少、人員不足などにより、一時的に運送業を止める場合は、事業休止の届出を検討します。
休止も廃止と同様、原則として実施予定日の30日前までの届出が必要です。
ただし、「許可を残しておきたい」という理由だけで休止を選ぶのではなく、次の点を具体的に確認する必要があります。
- 再開する意思があるか
- 再開時期の見通しがあるか
- 営業所や車庫を維持するか
- 車両を保有し続けるか
- 運行管理者・整備管理者などの体制をどうするか
- 再開時に現在の許可基準を満たせるか
例えば、一時的な荷主の減少が原因であり、半年後に契約再開の見込みがある場合は、休止を検討する余地があります。
一方、営業所と車庫を解約し、車両をすべて売却し、再開時期も決まっていない場合は、実態として廃止に近い可能性があります。
なお、一つの営業所だけを閉鎖する場合や、一部の車両だけを減らす場合は、事業全体の休止ではありません。営業所・車庫の変更や減車など、それぞれに対応した事業計画変更手続きが必要です。
事業を別の会社や後継者へ引き継ぐ場合は認可が必要
一般貨物自動車運送事業を別の会社や個人へ譲渡する場合は、原則として譲渡譲受の認可を受けます。
売買契約や事業譲渡契約を締結しただけでは、運送業許可まで移転するわけではありません。
認可審査では、譲り受ける側について、営業所、車庫、車両、管理体制、資金、法令遵守などが確認されます。単に「既存会社の設備をそのまま使う」という説明だけでは足りず、新しい事業者が許可基準を満たすことを資料で示す必要があります。
譲渡譲受で確認する主な項目
- 運送事業の全部を引き継ぐ計画になっているか
- 譲渡日・事業開始日をいつにするか
- 営業所や車庫の使用権原を移転できるか
- 車両の売買・リース契約を引き継げるか
- 運転者を引き続き雇用できるか
- 運行管理者・整備管理者を確保できるか
- 荷主との契約を引き継げるか
- 譲受人に必要な資金があるか
- 過去の変更届や報告書に未提出がないか
- 対象者が法令試験に合格できるか
譲渡譲受は認可を受ける前に実行してはいけません。新会社が旧会社の許可や緑ナンバーを使って運送を始めると、無許可営業などの問題につながるおそれがあります。
希望する引継日から逆算し、認可後に車両、契約、従業員、管理者などを切り替える工程を組みます。
個人事業を法人化しても許可は自動で移らない
個人事業主が株式会社や合同会社を設立した場合、個人と法人は法律上、別の事業者です。
そのため、法人を設立して車両や請求書の名義を変えるだけでは、個人名義の運送業許可を法人へ移せません。原則として、個人から新設法人への事業譲渡として、譲渡譲受の認可を受ける必要があります。
具体例:父親の個人事業を法人化して息子に引き継ぐ場合
父親が個人で運送業を営んでおり、息子を代表取締役とする会社を設立して事業を引き継ぐケースを考えます。
誤りやすい進め方は、次のようなものです。
- 会社を設立する
- 車両と請求書を会社名義に変える
- 父親の許可番号で営業を続ける
- 後から運輸支局に相談する
この順番では、許可を持たない会社が運送事業を行う状態になりかねません。
基本的には、次の順番で進めます。
- 個人から法人へ事業を移す方針を決める
- 法人の目的、役員、資本金、決算期などを設計する
- 営業所・車庫・車両・従業員を引き継げるか確認する
- 法人側が許可基準を満たす体制を整える
- 譲渡譲受認可を申請する
- 認可後に事業譲渡を実行する
- 車両登録、管理者、雇用、保険、契約などを切り替える
会社設立日と事業の引継日を同じ日にする必要はありません。認可前に事業を開始しないよう、会社設立、認可申請、車両登録、営業開始の先後関係を調整します。
なお、息子を従業員や役員として事業に参加させるだけで、事業主が父親のままなら、直ちに譲渡譲受になるとは限りません。「経営に参加すること」と「許可事業者を変更すること」は分けて考える必要があります。
合併・会社分割・相続による承継
合併による承継
許可を持つ会社が別会社に吸収されて消滅する場合、合併の登記だけでは運送業許可を承継できません。合併の効力が生じる前に、運送事業の承継について認可を受ける必要があります。
合併契約や登記の日程を先に確定すると、運輸局の認可が間に合わない可能性があります。運送業の認可日程と会社法上の手続きを並行して設計してください。
会社分割による承継
会社分割により運送事業部門を別会社へ移す場合も、認可が必要です。
どの営業所、車庫、車両、従業員、契約、債務を承継させるのかを明確にしなければなりません。運送事業の一部だけを切り分ける場合は、会社分割の内容と貨物自動車運送事業法上の手続きが一致するか、事前確認が必要です。
個人事業主が亡くなった場合
個人事業主が亡くなり、相続人が運送業を続ける場合は、相続による承継認可を受けます。
相続による認可には期限があり、被相続人の死亡後60日以内に認可を受けなければならないとされています。単に60日以内に相談すればよいという意味ではないため、死亡後は早急に運輸支局や専門家へ相談する必要があります。
遺産分割が終わっていない、相続人間の合意ができていない、後継者の管理体制が整っていない場合でも、期限は進みます。個人事業の承継を予定しているなら、生前に法人化や事業譲渡を検討することも選択肢になります。
引継ぎ前に「許可の現在地」を確認する
譲渡譲受や法人化の相談では、後継者側の計画だけでなく、現在の許可内容に問題がないかも確認されます。
例えば、実際の車庫が認可された場所と違う、増減車の届出が未提出、役員変更や営業所変更が反映されていない、事業報告書を提出していないといった状態では、その整理から始めなければなりません。
事業承継前には、少なくとも次の資料を確認します。
- 許可書と認可書
- 現在の事業計画
- 営業所・車庫・休憩睡眠施設の所在地
- 保有車両と事業用自動車等連絡書
- 運行管理者・整備管理者の選任状況
- 役員・代表者・利用運送などの届出状況
- 直近の事業報告書・事業実績報告書
- 営業所・車庫・車両の契約書
- 行政処分・監査・改善指導の状況
この確認を行わずに引継日だけを決めると、未届事項の補正や契約のやり直しが生じ、認可申請が遅れる原因になります。
手戻りを防ぐ実務上の順番
運送業をやめる・引き継ぐ場合は、次の順番で進めると整理しやすくなります。
- 廃止・休止・譲渡・合併・分割・相続のどれかを判断する
- 現在の許可内容と未提出手続きを確認する
- 希望日を設定し、届出期限や認可期間から逆算する
- 車両、施設、従業員、荷主契約の移転可否を確認する
- 後継者が許可基準を満たす体制を整える
- 運輸支局への事前相談を行う
- 必要な認可申請または届出を行う
- 認可後に法人・車両・雇用・保険・契約を切り替える
- 報告書や帳票保存など、旧事業者側の残務を処理する
廃止・休止は実施予定日の30日前までの届出が基本です。一方、譲渡譲受・合併・分割は認可手続きであるため、届出を出せばすぐに実行できるものではありません。
後継者を決めた段階、法人設立を検討し始めた段階、会社売却の話が出た段階で相談することが、営業を止めないための重要なポイントです。
愛知県で運送業の廃止・休止・事業承継をご検討の方へ
運送業の承継では、会社設立、株式や事業の譲渡、車両登録、雇用、税務など、複数の手続きが同時に進みます。
特に、次のケースは実行前の確認をおすすめします。
- 個人事業を法人化したい
- 親族へ運送業を引き継ぎたい
- 運送会社の売却を検討している
- 合併や会社分割を予定している
- 廃止と休止のどちらを選ぶか迷っている
- 後継者は決まっているが、許可の引継ぎ方法が分からない
- 過去の変更届や報告書に不安がある
いしかわ行政書士事務所では、愛知県西三河地域を中心に、運送業の廃止・休止届、譲渡譲受、法人化、事業承継に関する手続きを支援しています。
先に会社や車両の名義を変える前に、現在の許可内容と希望する引継日をご準備のうえ、ご相談ください。
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主な根拠・確認資料
- 貨物自動車運送事業法(e-Gov法令検索)
- 一般貨物自動車運送事業等の申請事案の処理方針(中部運輸局)
- 一般貨物自動車運送事業の申請・届出様式(中部運輸局)
- 事業計画の変更・事業承継手続き(近畿運輸局)
※2026年8月時点の法令・公示・公開資料をもとに作成しています。提出先、必要書類、審査方法は管轄運輸局や個別事情により異なるため、実行前に最新情報をご確認ください。
