運送業の開業資金はどれくらい必要?車両調達と運転資金の考え方

この記事は行政書士が監修しています。
いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令や公的機関の情報、実務をもとに、制度や手続きのポイントを分かりやすく解説します。

「中古トラックを5台そろえれば、残りはそれほどかからないだろう」

運送業の開業資金を考えるとき、車両代だけを見ていると、許可申請や開業後の資金繰りで行き詰まることがあります。

運送業では、車両の購入費やリース料のほか、営業所・車庫、保険、税金、人件費、燃料費、修繕費などが必要です。

さらに、運送を開始してから最初の運賃が入金されるまでにも、給与、燃料代、高速料金などの支払いは発生します。

そのため、開業資金は次の3つに分けて考える必要があります。

  1. 開業設備を確保する資金
  2. 運送業許可で確認される所要資金
  3. 売上入金まで事業を継続する運転資金

単に「最低いくらあれば開業できるか」ではなく、「入金が遅れても運行を止めず、給与や燃料代を支払えるか」まで確認することが大切です。

運送業の開業資金に一律の金額はない

運送業の開業資金は、車両数、車種、購入・ローン・リースの違い、営業所・車庫の賃料、運行距離、運転者数によって大きく変わります。

例えば、同じトラック5台で始める場合でも、次のような違いがあります。

条件開業資金への主な影響
新車を購入する車両取得費が大きくなる
中古車を購入する取得費を抑えやすいが、初期整備や故障修理の予備費が必要
ローンを利用する一括購入より当初支出を抑えられるが、頭金と返済資金が必要
リースを利用する初期支出を抑えやすいが、毎月の固定費が続く
長距離輸送を行う燃料費、高速料金、運行中の立替費用が増えやすい
大型車を使用する車両価格、保険料、燃料費、タイヤ・修繕費が増えやすい
営業所・車庫を借りる敷金、保証金、賃料が必要
運賃の入金が遅い入金までに必要な運転資金が増える

したがって、「運送業は1,000万円あれば始められる」「3,000万円あれば必ず足りる」と一律には判断できません。

自社の車両、運行、契約条件を決め、見積書と支払時期から積み上げて計算します。

開業資金に含める費用

開業資金は、大きく設備資金と運転資金に分けます。

設備資金は、車両や営業所など、開業に必要な設備を準備するための資金です。

運転資金は、開業後の給与、燃料代、賃料など、日々の事業を継続するための資金です。

車両の調達費用

車両については、購入価格だけでなく、次の費用を確認します。

  • 車両本体価格
  • 頭金
  • ローンの返済額
  • リース料
  • 登録費用
  • ナンバープレート代
  • 自動車税
  • 自動車重量税
  • 自賠責保険料
  • 任意保険料
  • 納車前整備費用
  • ドライブレコーダーなどの装備費用
  • タイヤ・消耗部品の交換費用

中古トラックは購入価格を抑えられる可能性がありますが、納車後すぐにタイヤ交換や修理が必要になることもあります。

購入価格の安さだけで決めず、車検残存期間、走行距離、整備記録、タイヤ、架装部分、故障時の保証まで確認します。

営業所・車庫の費用

賃貸物件を使用する場合は、月額賃料以外にも次の費用が発生します。

  • 敷金・保証金
  • 礼金
  • 仲介手数料
  • 前払賃料
  • 営業所の机・電話・パソコン
  • 車庫の整地・区画整備
  • 看板・通信設備
  • 休憩・睡眠施設の備品

安い土地を契約しても、運送業許可の車庫要件を満たさなければ使用できません。

営業所・車庫の距離、収容能力、前面道路、使用権原、都市計画法・農地法などを確認してから契約します。

人件費

運転者の給与だけでなく、次の費用も含めます。

  • 役員報酬
  • 運転者の給与
  • 運行管理者・整備管理者の給与
  • 時間外手当
  • 社会保険料の会社負担分
  • 労働保険料
  • 健康診断費用
  • 適性診断・講習費用
  • 採用費

運転者を採用した時点から給与が発生しても、許可や車両登録が終わるまでは売上が発生しない期間があります。

許可が出る時期だけでなく、実際に緑ナンバー車両が稼働できる時期から逆算して採用計画を立てます。

開業後に継続して発生する費用

運行を開始すると、次のような支払いが継続します。

  • 燃料費
  • 高速道路料金
  • 車両修繕費
  • タイヤ・オイルなどの消耗品費
  • 営業所・車庫の賃料
  • 水道光熱費
  • 通信費
  • 保険料
  • 税金
  • 会計・労務関係費用
  • 借入金やローンの返済
  • リース料

事故や故障により車両が稼働できなくても、給与、賃料、返済などの固定費は発生します。

通常月の支出だけでなく、故障や売上減少が発生した場合の予備資金も考えておく必要があります。

許可の資金要件と実際の資金繰りは分けて考える

中部運輸局の一般貨物自動車運送事業の審査基準では、次の費用を基に所要資金を計算します。

費目中部運輸局の主な計算範囲
人件費役員報酬を含む6か月分
燃料油脂費6か月分
修繕費6か月分
車両費購入価格。分割の場合は頭金と1年分の割賦金、リースの場合は1年分のリース料
建物費購入価格または1年分の賃料と敷金など
土地費購入価格または1年分の賃料
器具・工具・備品取得価格
保険料自賠責・任意保険などの1年分
税金自動車税・重量税の1年分、環境性能割、登録免許税など
その他道路使用料、光熱費、通信費、広告費などの2か月分

申請者は、この方法で計算した所要資金以上の自己資金を、申請日以降、許可まで常時確保する必要があります。

ただし、この所要資金は許可審査上の基準です。

実際の事業では、次の事情によって、さらに資金が必要になることがあります。

  • 最初の取引先からの入金が開業から2~3か月後になる
  • 燃料カードや高速料金の支払いが先に来る
  • 採用後、運行開始前から給与が発生する
  • 中古車の修繕が重なる
  • 予定していた仕事量を確保できない
  • 荷主からの入金が遅れる
  • 事故や故障で車両が稼働できない
  • 開業後すぐに借入金の返済が始まる

「残高証明書の金額を満たしたから、開業後の資金も足りる」とは限りません。

許可用の資金計算と、実際の月別資金繰り表の両方を作る必要があります。

5台で開業する場合の資金計算例

中古トラック5台で開業する会社を例に考えます。

次の数字は相場や標準額ではなく、計算方法を示すための仮定です。実際には見積書を取得して置き換えてください。

費目仮定した金額計算対象額
車両5台の頭金と1年分の割賦金1台160万円800万円
役員・運転者等の人件費月200万円6か月分1,200万円
燃料費・修繕費月90万円6か月分540万円
営業所・車庫の賃料・敷金年間賃料等400万円
保険料・税金見積額250万円
備品・通信・光熱費等見積額60万円
合計3,250万円

この例では、許可審査上の所要資金は3,250万円となります。

ただし、車両価格、運転者の給与、保険料、月間走行距離が変われば、必要額も大きく変わります。

例えば、次の場合は別の計算が必要です。

  • 車両を現金一括で購入する
  • 大型車・冷凍車・トレーラを使用する
  • リース車両で始める
  • 役員が運転者を兼ねる
  • 長距離運行が中心になる
  • 営業所や車庫を自己所有している
  • 故障リスクの高い中古車を使用する

また、計算上3,250万円を確保できても、開業直後に車両代や敷金をまとめて支払えば、手元資金は減ります。

許可上の所要資金だけでなく、「各支払いの後にいくら残るか」を確認してください。

売上入金までの運転資金を計算する

運送業は、運行した当日に運賃を受け取れるとは限りません。

例えば、取引条件が月末締め・翌々月末払いの場合、4月上旬に運行を始めても、その売上の入金は6月末になる可能性があります。

その間にも、次の支払いが発生します。

  • 4月分・5月分・6月分の給与
  • 燃料代
  • 高速道路料金
  • 社会保険料
  • 営業所・車庫の賃料
  • 車両ローン・リース料
  • 保険料
  • 修繕費

運転資金は、「毎月の支出×何か月分」という計算だけでなく、入金日と支払日を並べて確認します。

まず13週間の資金繰り表を作る

開業直後は、少なくとも13週間程度について、週ごとの入出金を確認すると資金不足の時期を把握しやすくなります。

記載する主な項目は次のとおりです。

  • 週初めの預金残高
  • 荷主別の売上予定
  • 実際の入金予定日
  • 給与支払日
  • 燃料カードの引落日
  • 高速料金の引落日
  • 賃料・リース料・返済日
  • 保険料・税金の支払日
  • 修繕費の予備額
  • 週末の預金残高

最も残高が少なくなる時点でも支払いができるか確認します。

月単位では資金が足りているように見えても、給与支払日の直前に燃料代や保険料の引落しが重なると、一時的に資金不足になることがあります。

車両購入・ローン・リースの選び方

どの調達方法が最も安いかだけでなく、開業後の手元資金と毎月の固定費から判断します。

調達方法メリット注意点
現金購入毎月の返済負担を抑えられる開業時に手元資金が大きく減る
ローン購入支払いを分散できる頭金、審査、利息、毎月返済が必要
リース初期費用を抑えやすい中途解約や使用条件、総支払額を確認
中古車購入車両取得費を抑えられる可能性がある修繕費と稼働停止リスクを見込む必要がある

リース車両でも、契約期間や使用権原などの条件を満たせば、運送業許可の車両として使用できる可能性があります。

中部運輸局の審査基準では、リース車両について、おおむね1年以上の契約期間がある契約書などで使用権原を確認します。

ただし、初期費用を抑えられても、1年分のリース料は許可の所要資金に含まれます。

また、毎月の売上が想定を下回ってもリース料は発生するため、固定費として資金繰り表に反映させます。

融資を受けて運送業を始められるか

運送業の開業資金を融資で調達することは可能です。

日本政策金融公庫では、新たに事業を始める人などを対象に、新規開業・スタートアップ支援資金を用意しています。

2026年8月確認時点では、設備資金と運転資金が対象で、融資限度額は7,200万円です。ただし、融資額、返済期間、利率、担保・保証などは審査と個別条件によって変わります。

融資制度の上限額まで必ず借りられるわけではありません。

相談時には、次の資料が判断材料になります。

  • 創業計画書
  • 車両見積書
  • ローン・リースの見積書
  • 営業所・車庫の契約書案
  • 開業後の売上見込み
  • 荷主候補や予定する仕事の内容
  • 月別・週別の資金繰り表
  • 自己資金の形成経過
  • 運送業での勤務・経営経験
  • 運転者や管理者の採用計画

融資の決定前に車両や不動産を契約すると、希望額を借りられなかった場合でも支払義務が残ることがあります。

運送業許可、融資、車両調達、営業所・車庫契約の時期を並行して調整することが必要です。

開業資金を抑えるときに削ってよいもの・いけないもの

開業資金を抑えること自体は問題ではありません。

ただし、単に最も安いものを選ぶのではなく、「初期支出を減らしても、稼働と安全に支障がないか」で判断します。

抑えられる可能性がある費用

  • 過剰な広さの営業所を避ける
  • 運行に適した中古車を比較する
  • 車両の購入・ローン・リースを比較する
  • 必要以上の備品を開業時に購入しない
  • 複数の保険見積りを比較する
  • 車庫の立地と賃料を比較する

安さだけで削らない方がよい費用

  • 必要な運転者・管理者の人件費
  • 任意保険
  • 法定点検・整備費用
  • タイヤ・ブレーキなどの安全関連費用
  • 故障時の予備資金
  • 売上入金までの運転資金
  • 許可要件を満たす営業所・車庫の費用

安い中古車を購入しても、故障で仕事に使えなければ、修理費だけでなく売上も失います。

運送業では「購入時の価格」だけでなく、「実際に稼働できる状態を維持する総費用」で比較することが大切です。

自社に必要な開業資金を確認する順番

次の順番で計算すると、資金の重複や漏れを減らせます。

  1. 予定する荷物、運行地域、運行距離を決める
  2. 必要な車種と車両数を決める
  3. 車両の購入・ローン・リース見積りを取る
  4. 営業所・車庫候補の要件と費用を確認する
  5. 運転者・運行管理者・整備管理者の人員計画を作る
  6. 保険、税金、登録、備品などの見積りを集める
  7. 中部運輸局の基準により許可上の所要資金を計算する
  8. 荷主ごとの締日・支払日を確認する
  9. 開業後13週間の資金繰り表を作る
  10. 最も残高が少なくなる時点の不足額を確認する
  11. 自己資金と融資希望額を分ける
  12. 融資、許可申請、採用、車両契約の順番を決める

まだ荷主や運賃が決まっていない場合は、希望的な売上を前提にせず、仕事量が少ない場合の資金繰りも作ります。

車両の見積り、人件費、月間走行距離、燃費、燃料単価、支払サイトが分かれば、自社に必要な金額を具体的に計算できます。

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出典

中部運輸局「一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の申請事案の処理方針」日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」日本政策金融公庫「創業融資のご案内」

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