この記事は、いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令・公的機関の情報を確認して作成しています。
巡回指導の準備をしていて、
「最近入ったドライバーの初任運転者教育をしていなかった」
「適性診断を受けた記録が見つからない」
「前の会社でトラックに乗っていた人だから初任教育はいらないと思っていた」
ということに気づくことがあります。
この場合、最初にするのは、全員を一律に初任運転者として扱って教育をやり直すことではありません。
まず運転者ごとに、
- いつ入社したか
- いつから事業用トラックに乗務したか
- 入社前3年間に他の一般貨物自動車運送事業者等で常時選任されていたか
- 初任運転者に該当するか
- 初任運転者教育を実施したか
- 初任診断を受診したか
- 実施・受診した記録が残っているか
を確認します。
「教育そのものをしていない」のか、「実施したが記録だけ見つからない」のかでも対応が変わります。
まず誰が初任運転者に該当するか確認する
初任運転者は、単純に「運送会社へ新しく入社した人」という意味ではありません。
国土交通省の指針では、運転者として常時選任するため新たに雇い入れた人のうち、その会社で初めて事業用自動車に乗務する前3年間に、他の一般貨物自動車運送事業者等で運転者として常時選任されていた人は、初任運転者から除かれます。
たとえば、次の2人では扱いが変わる可能性があります。
| 入社した運転者 | 最初に確認すること |
|---|---|
| トラック運転経験がほとんどない | 初任運転者に該当する可能性が高い |
| 直前まで他の運送会社で事業用トラックに乗っていた | 過去3年間の常時選任歴を確認 |
「大型免許を持っている」
「10年前にトラックへ乗っていた」
だけでは判断できません。
確認するのは、今回乗務を始める前3年間の状況です。
初任運転者教育は何をする?
初任運転者に該当する場合は、通常の年間教育とは別に特別な指導が必要です。
現在の国土交通省の指針では、主に、
- 法令や運転者が守るべき事項
- トラックの構造上の特性
- 日常点検
- 車高・視野・死角・内輪差・制動距離
- 貨物の積載・固縛
- 適切な運行経路
- 危険予測
- 健康管理
- 安全運転
などについて指導します。
時間については、
- 座学等の指導:15時間以上
- 実際の事業用自動車を使用した安全運転の実技:20時間以上
が必要です。
つまり、「入社日に2時間ほど社内説明をした」「先輩ドライバーが横乗りした」というだけで、自動的に初任運転者教育を満たすわけではありません。
何を何時間行ったのかを確認する必要があります。
教育は原則として乗務前に実施する
初任運転者に対する特別な指導は、原則として、その運送会社で初めて事業用自動車に乗務する前に実施します。
ただし、やむを得ない事情がある場合は、乗務を開始した後1か月以内に実施する扱いがあります。
ここで注意したいのは、
「最初の1か月なら自由に後回しにしてよい」
という制度ではないことです。
基本は乗務前です。
すでに何か月も乗務していて、巡回指導の直前に未実施へ気づいた場合は、本来の実施時期を過ぎています。
その場合は、過去の日付で実施したことにするのではなく、現在の未実施状況を正確に確認します。
初任診断も別に確認する
初任運転者教育と初任診断は同じものではありません。
教育を社内で実施していても、必要な初任診断を受けていなければ、それだけで終わりではありません。
一方、初任診断を受診していても、15時間以上の指導と20時間以上の実技を行ったことにはなりません。
別々に確認します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 初任運転者教育 | 事業者が実施する特別な指導 |
| 初任診断 | 国土交通大臣が認定した適性診断 |
| 一般診断 | 任意の適性診断。初任診断とは別 |
「適性診断を受けたことがある」と本人が話していても、それが一般診断なのか初任診断なのか確認します。
初任診断が必要な人は誰?
初任診断についても、過去の受診歴が関係します。
新たに雇い入れた運転者のうち、その会社で初めて事業用自動車に乗務する前3年間に初任診断を受けていない人が対象です。
したがって、
「前の会社で受けたことがあるらしい」
というだけで判断せず、
- 何の診断を受けたか
- いつ受けたか
- 初任診断だったか
を確認します。
前の会社で3年以内に初任診断を受けている場合は、新しい会社へ入るたびに必ず初任診断を受け直すという整理ではありません。
初任診断の受診時期も原則は乗務前
初任診断も、原則としてその会社で初めて事業用自動車に乗務する前に受診させます。
やむを得ない事情がある場合には、乗務開始後1か月以内とされています。
巡回指導前に、
「入社して半年経つが受けていない」
と気づいた場合は、本来の受診時期をすでに過ぎています。
この場合も、診断日を過去へ戻すことはできません。
まず現在から受診できる認定機関を確認し、未受診の状態を解消する方向で整理します。
教育をしたが記録がない場合
巡回指導で確認されるのは、「会社ではちゃんと教えています」という口頭説明だけではありません。
初任運転者に対する特別な指導については、実施年月日や具体的な指導内容を運転者台帳へ記載するか、指導内容を記録した書面を運転者台帳へ添付します。
そのため、
「入社時に確かに教育した」
という場合は、
- 教育計画
- 使用した教材
- 指導記録
- 受講者名簿
- 実技指導の記録
- 同乗した指導者の記録
- デジタコなどの運行資料
など、当時の実施状況を確認できるものが残っていないか探します。
記録がないから新しく過去の記録を作る、ではない
たとえば、半年前に教育していたとしても、何を何時間実施したか確認できない状態で、
「たぶん15時間やった」
として記録を作ることは避けます。
まず当時の資料を探し、どこまで事実を確認できるか整理します。
巡回指導前に帳票を整えることと、過去の事実を作り直すことは別です。
初任診断を受けたが結果票が見つからない場合
初任診断を受けている場合は、受診年月日と診断結果を確認します。
適性診断の結果を記録した書面は、運転者台帳へ添付する扱いです。
本人が受けたことを覚えていても、会社側に何も残っていない場合は、
- 本人の控え
- 受診した診断機関
- 社内の過去ファイル
- 前の担当者が保管していた資料
などを確認します。
受診した機関や時期が分かれば、再発行等が可能か診断機関へ確認する方法も考えられます。
教育だけでなく事故歴も確認する
新しく運転者を雇い入れた場合は、初任教育だけを見るのではありません。
国土交通省の指針では、運転記録証明書などによって雇入れ前の事故歴を把握し、事故惹起運転者に該当しないか確認することも求めています。
つまり、新しく入った運転者について確認するものは、
- 初任運転者に該当するか
- 初任教育
- 初任診断
- 過去の事故歴
です。
過去の事故内容によっては、初任運転者としての対応だけではなく、事故惹起運転者として別の特別な指導・適性診断が必要になる可能性があります。
65歳以上なら適齢診断も別に確認する
新しく採用した人が65歳以上なら、初任運転者だけを見て終わりではありません。
高齢運転者については適齢診断の受診時期が別に定められています。
65歳以上の人を新たに運転者として選任した場合は、選任の日から1年以内に適齢診断を受けさせ、その後も3年以内ごとに受診させます。
つまり、一人の運転者について、
「初任運転者に該当するか」
「高齢運転者にも該当するか」
をそれぞれ確認することがあります。
巡回指導前に運転者ごとの一覧を作る
複数の運転者がいる会社では、一人ずつファイルを見るより、まず一覧にすると不足が分かりやすくなります。
| 運転者 | 入社日 | 初乗務日 | 過去3年の選任歴 | 初任教育 | 初任診断 | 事故歴 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 2026/4/1 | 2026/4/3 | なし | 済 | 済 | なし | |
| B | 2026/5/1 | 2026/5/2 | 不明 | 不明 | 未確認 | 不明 | 要確認 |
| C | 2026/6/1 | 2026/6/2 | 前職で選任 | - | 初任診断歴確認 | なし |
この形にすると、
「誰について何を探せばよいか」
が見えてきます。
特に「不明」を残すのがポイントです。
資料がない時点で、勝手に「未実施」と決めたり、「実施済み」にしたりしません。
すでに未実施と分かったらどうする?
巡回指導の通知が来た後に、教育・診断の未実施がはっきりした場合は、
- 初任運転者に本当に該当するか確認する
- 本来の実施・受診期限を確認する
- 現在までの乗務状況を確認する
- 今から実施できる教育を進める
- 初任診断の予約・受診を進める
- 実施した内容を正しく記録する
- 今後の新規採用時の管理方法を決める
という順番で整理します。
「巡回指導までに書類さえ作ればよい」ではありません。
未実施が分かったなら、現在から安全管理の状態を改善することが先です。
今後は入社時チェックに入れておく
初任運転者教育の漏れは、巡回指導の直前に探すより、採用時に防ぐほうが簡単です。
新しい運転者を採用したら、
- 過去3年間の事業用トラックの選任歴
- 過去の初任診断受診歴
- 事故歴
- 年齢
- 初任教育の要否
- 初任診断の要否
- 初乗務予定日
を確認します。
そのうえで、必要な教育・診断を初乗務日から逆算します。
「採用したらすぐトラックへ乗せる」ではなく、「乗務開始までに何を終わらせるか」を採用手続きの一部にすると漏れを防ぎやすくなります。
巡回指導前のチェックリスト
- □ 新しく採用した運転者を全員確認した
- □ 入社日を確認した
- □ 初めて事業用自動車へ乗務した日を確認した
- □ 過去3年間の他社での常時選任歴を確認した
- □ 初任運転者に該当するか判断した
- □ 初任運転者教育15時間以上の記録がある
- □ 安全運転の実技20時間以上の記録がある
- □ 初任診断の対象者を確認した
- □ 初任診断の受診年月日と結果を確認した
- □ 運転者台帳に必要な記録・添付がある
- □ 雇入れ前の事故歴を確認した
- □ 65歳以上の運転者は適齢診断も確認した
- □ 未実施のものを過去の日付で作成していない
チェックできないところがあれば、「未実施」「記録なし」「不明」のどれなのかを分けて確認します。
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まとめ
初任運転者教育や適性診断ができていないことに気づいたら、まず対象となる運転者を特定します。
初任運転者教育は、対象者に対して座学等15時間以上、安全運転の実技20時間以上を行うのが基本です。
初任診断も別に必要な場合があります。
いずれも原則は、その会社で初めて事業用自動車に乗務する前です。やむを得ない場合の1か月以内という扱いがありますが、何か月も後回しにしてよいという意味ではありません。
巡回指導前に未実施が分かっても、過去に実施したことにするのではなく、誰について何が不足しているのかを確認し、現在から必要な対応を進めます。
初任運転者の管理を整理したい方へ
「誰が初任運転者になるのか分からない」
「教育はしたが記録が足りない」
「前職で適性診断を受けたと言っているが、扱いが分からない」
といった場合は、運転者ごとに採用日、乗務開始日、過去の選任歴、教育・診断の状況を整理します。
いしかわ行政書士事務所では、碧南市・西尾市・高浜市・安城市・刈谷市・岡崎市を中心に、一般貨物自動車運送事業の許可後手続きに対応しています。
巡回指導前に現在の運転者管理を確認し、行政手続きの面で整理が必要な事項があれば、対応範囲を分けて確認します。
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出典
国土交通省|貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針
国土交通省 関東運輸局|貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針
この記事は、2026年9月時点の法令・公的機関の情報をもとに作成しています。
