
この記事は行政書士が監修しています。
いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令や公的機関の情報、実務をもとに、制度や手続きのポイントを分かりやすく解説します。
巡回指導では、「研修を実施したか」「健康診断を受けたか」だけでなく、対象者、実施時期、教育内容、受診結果を確認した後の対応まで見られます。
特に注意したいのが、初任運転者、高齢運転者、事故惹起運転者です。
一般運転者に対する毎年の教育とは別に、特別な指導と国土交通大臣が認定する適性診断が必要になる場合があります。
巡回指導の通知が届いてから慌てないよう、運転者ごとに教育記録、適性診断票、健康診断個人票、乗務員台帳を照合しておくことが大切です。
初任運転者教育とは?巡回指導で確認される教育記録
一般貨物自動車運送事業者が新たに雇い入れ、常時選任する運転者のうち、その会社で初めてトラックへ乗務する前3年間に、ほかの一般貨物自動車運送事業者などで常時選任された経験がない人は、原則として初任運転者に該当します。
運転免許の取得時期や、本人が「以前もトラックに乗っていた」と話していることだけでは判断できません。
前の会社で事業用トラックの運転者として常時選任されていたか、その時期が自社で初めて乗務する前3年以内かを確認します。
初任運転者には、次の特別な指導が必要です。
| 指導区分 | 実施内容 | 必要時間 |
|---|---|---|
| 座学・実車を用いた指導 | 法令、安全運転、車両の特性、日常点検、積載・固縛、危険予測、健康管理など | 15時間以上 |
| 安全運転の実技 | 実際に事業用自動車を運転させ、添乗などにより指導 | 20時間以上 |
15時間の指導のうち、日常点検、車高・視野・死角・内輪差・制動距離、貨物の積載・固縛などについては、実際の車両を使って指導します。
資料を読ませたり、動画を視聴させたりするだけで、すべての初任運転者教育を終えたことにはできません。
特別な指導は、その会社で初めて事業用自動車に乗務する前に行うのが原則です。やむを得ない事情がある場合には乗務開始後1か月以内に行える規定がありますが、人員不足や教育日程を組んでいなかったことを前提に、安易に後回しにする運用は避けてください。
巡回指導に備えて、次の事項を記録します。
- 教育を受けた運転者の氏名
- 教育を行った年月日、場所
- 教育を担当した人の氏名
- 各日に実施した具体的な内容
- 座学等と安全運転実技の時間
- 使用した教材
- 実車指導に使用した車両
- 添乗指導を行った時間と内容
「4月1日から5日まで初任教育を実施」とだけ書かれていても、15時間と20時間を分けて確認できなければ、必要な教育を実施したことを説明できません。
指導の実施年月日と内容は乗務員台帳へ記載するか、具体的な教育記録を乗務員台帳に添付して管理します。
適性診断を受けていないとどうなる?
すべての運転者に法定の適性診断が義務付けられているわけではありません。
一般診断は任意ですが、初任運転者、一定の事故を起こした事故惹起運転者、65歳以上の高齢運転者には、それぞれに対応する国土交通大臣認定の適性診断が必要です。
| 運転者の区分 | 適性診断 | 主な受診時期 |
|---|---|---|
| 初任運転者 | 初任診断 | 原則として、その会社で初めて事業用トラックに乗務する前 |
| 高齢運転者 | 適齢診断 | 65歳に達した日以後1年以内。その後3年以内ごと |
| 事故惹起運転者 | 特定診断Ⅰまたは特定診断Ⅱ | 原則として、事故後に再び事業用自動車へ乗務する前 |
初任診断については、その会社で初めて事業用トラックに乗務する前3年間に受診していない人が対象です。
原則は乗務前の受診ですが、やむを得ない事情がある場合には、乗務開始後1か月以内に受診させる規定があります。
適性診断は、受診票を保管して終わりではありません。
運行管理者は診断結果を確認し、注意力、判断の傾向、運転行動の特性などを踏まえて個別に指導します。診断結果に基づいて、何を本人へ伝え、どのような点に注意して乗務させるかを記録してください。
巡回指導では、次の食い違いが問題になりやすくなります。
- 入社日より前の診断票はあるが、受診した診断の種類が違う
- 一般診断を受けたため、初任診断も済んだと思っていた
- 初任診断を受ける前に単独乗務させていた
- 診断票はあるが、結果に基づく個別指導を記録していない
- 65歳になった運転者の適齢診断が抜けている
- 事故惹起運転者に該当するか確認していない
運転者を採用したときは、運転記録証明書や無事故・無違反証明書などを利用して、雇入れ前の事故歴を把握する必要もあります。
前職での経験、過去3年間の選任状況、初任診断の受診歴、事故歴を確認してから、必要な教育と診断を決めます。
健康診断の記録は巡回指導で必要?
運送会社は、常時使用する労働者を雇い入れる際に雇入時の健康診断を実施し、その後は原則として1年以内ごとに1回、定期健康診断を実施します。
深夜業など、労働安全衛生規則上の特定業務へ常時従事する労働者については、配置替えの際と6か月以内ごとに1回の健康診断が必要になる場合があります。
夜間運行を担当する運転者がいる場合は、通常の年1回の健康診断だけで足りると決めつけず、勤務実態から特定業務従事者に該当するか確認してください。
健康診断の結果は、健康診断個人票を作成して5年間保存します。
巡回指導前には、現在在籍する運転者の一覧と健康診断の受診日を並べ、次回期限が切れていないか確認します。
| 確認資料 | 確認する内容 |
|---|---|
| 選任運転者一覧・乗務員台帳 | 現在乗務している運転者が漏れていないか |
| 雇入時健康診断 | 入社時に実施されているか |
| 定期健康診断 | 前回受診日から必要な期間を超えていないか |
| 健康診断個人票 | 必要な検査項目と結果が記録されているか |
| 勤務表・運行記録 | 深夜業などに該当する運転者がいないか |
| 医師の意見・就業上の措置 | 異常所見がある人への対応を確認できるか |
「本人から異常なしと聞いた」「健康診断を受けるよう伝えた」という説明だけでは、会社が健康状態を確認したことにはなりません。
異常所見がある場合には、医師の意見を聴き、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などを検討します。
健康診断結果には個人情報が含まれるため、誰でも閲覧できる場所に置くのではなく、取扱担当者と保管場所を決めて管理してください。
高齢運転者の管理で注意すべきこと
貨物自動車運送事業では、65歳以上の運転者が適齢診断の対象になります。
65歳に達した日以後1年以内に1回受診させ、その後は3年以内ごとに1回受診させます。65歳以上の人を新たに運転者として選任した場合は、選任日から1年以内が最初の受診期限です。
適齢診断を受けさせるだけでなく、診断結果が判明した後1か月以内に、その結果を踏まえた特別な指導を実施します。
指導では、加齢による身体機能の変化を一方的に指摘するのではなく、運転者本人が安全な運転方法を考えられるよう、次のような内容を具体的に話し合います。
- 視力や視野、反応速度の変化
- 夜間や悪天候時の見え方
- 疲れが残りやすい運行
- 休憩を取る時期
- バック時や右左折時の確認方法
- 診断結果に表れた運転傾向
- 健康診断の結果と服薬状況
- 今後担当する車両や運行経路
年齢だけを理由に一律に乗務を制限するのではなく、適齢診断、健康診断、日常の点呼、本人との面談などを組み合わせて判断します。
巡回指導前には、運転者の生年月日から65歳到達者を抽出し、適齢診断の受診日と結果に基づく指導記録を確認してください。
事故防止教育の記録は必要?
運送会社は、初任運転者などの特定運転者だけでなく、すべての事業用自動車の運転者へ、継続的かつ計画的な指導・監督を毎年実施します。
貨物自動車運送事業者の一般的な指導では、主に次の内容を扱います。
- 事業用自動車を運転する心構え
- 運行の安全に関する法令と基本事項
- トラックの構造上の特性
- 貨物の正しい積載・固縛方法
- 過積載の危険性
- 危険物を運搬するときの注意
- 運行経路と道路・交通状況
- 危険予測、回避、緊急時の対応
- 運転適性に応じた安全運転
- 過労、睡眠不足、飲酒、服薬などの影響
- 健康管理
- 運転支援装置の特性と正しい使い方
教育は資料を配布するだけでなく、年間計画を作成し、実際の運行内容に合わせて実施します。
自社で起きた事故やヒヤリ・ハット、ドライブレコーダーの映像、よく通行する経路の危険箇所などを使うと、教育内容と現場の運行を結び付けられます。
一般的な指導・監督については、次の事項を記録し、営業所で3年間保存します。
- 実施年月日
- 実施場所
- 具体的な教育内容
- 指導を行った人
- 指導を受けた運転者
- 使用した教材
- 理解度の確認方法
年間教育計画だけがあっても、実際に誰が参加したか分からなければ、実施済みとは説明できません。
参加者の署名簿だけで、何を教えたか分からない記録も不十分です。計画、教材、実施記録、参加者名簿を一つのまとまりとして保管してください。
教育・適性診断・健康管理の記録を照合する方法
巡回指導前には、書類の種類ごとではなく、運転者ごとに確認すると見落としを発見しやすくなります。
次のような管理表を作成し、証明書や記録を照合します。
| 運転者ごとの確認項目 | 確認資料 |
|---|---|
| 入社日・選任日 | 労働者名簿、乗務員台帳 |
| 過去3年間の選任経験 | 前職の資料、運転記録証明書、本人への確認記録 |
| 初任運転者に該当するか | 過去の選任状況、乗務開始日 |
| 初任教育の実施 | 教育記録、教材、実技指導記録 |
| 初任診断の受診 | 適性診断票 |
| 年齢と適齢診断 | 生年月日、適齢診断票 |
| 一般教育の実施 | 年間計画、実施記録、参加者名簿 |
| 健康診断の受診 | 健康診断個人票 |
| 診断後の対応 | 医師の意見、面談・指導・就業上の措置の記録 |
不備が見つかっても、過去に行っていない教育を実施済みとして記録してはいけません。
記載だけが不足しているのか、教育や診断自体を実施していないのかを分け、未実施の場合は対象者、実施内容、予約状況、今後の期限管理方法を整理します。
よくある質問
- Q大型トラックの経験者を採用した場合も初任運転者教育が必要ですか?
- A
大型免許や運転経験があるだけでは判断できません。その会社で初めて乗務する前3年間に、ほかの一般貨物自動車運送事業者などで運転者として常時選任されていたかを確認します。該当しない場合は、原則として初任運転者教育が必要です。
- Q初任運転者教育は外部研修へ参加させれば完了しますか?
- A
外部研修の内容と時間によります。15時間以上の指導と20時間以上の安全運転実技のうち、どこまで満たしているかを確認してください。不足する実車指導や添乗指導は会社側で実施する必要があります。
- Q初任教育中の実技運転は乗務実績に含められますか?
- A
初任運転者に対する20時間以上の実技指導は、指導者が添乗するなどして安全運転を教える時間です。通常業務として単独で荷物を運ばせた時間を、そのまま実技指導時間として扱うことはできません。
- Q前の会社で初任診断を受けていれば、再受診は不要ですか?
- A
自社で初めて事業用トラックに乗務する前3年間に、国土交通大臣認定の初任診断を受診しているかを確認します。一般診断など別の診断では代用できません。
- Q65歳になったら、すぐに適齢診断を受けなければなりませんか?
- A
貨物運送では、65歳に達した日以後1年以内に受診させ、その後は3年以内ごとに受診させます。診断結果が判明した後1か月以内に、結果を踏まえた特別な指導も必要です。
- Q健康診断で異常が見つかったら運転させられませんか?
- A
異常所見があるだけで一律に乗務禁止になるわけではありません。医師の意見を聴き、疾病の状態、治療・服薬、担当する運行などを踏まえて、乗務の可否や就業上の措置を判断します。
- Q毎月の安全会議を行っていれば一般教育になりますか?
- A
会議の名称ではなく、法令上必要な教育内容を計画的に扱い、実施日時、内容、指導者、参加者を記録しているかで判断します。配車連絡だけの会議では、運転者教育を実施したことにはなりません。
まとめ
巡回指導では、一般運転者に対する毎年の教育と、初任運転者、高齢運転者、事故惹起運転者に対する特別な指導・適性診断を分けて確認します。
初任運転者に該当する場合は、原則として乗務前に15時間以上の指導と20時間以上の安全運転実技を行い、初任診断も受診させます。
65歳以上の運転者には適齢診断を受けさせ、診断結果が判明した後1か月以内に個別の指導を行います。
健康診断については、受診の有無だけでなく、深夜業などを含む勤務実態、異常所見があった場合の医師の意見、就業上の措置まで確認してください。
運転者ごとに、入社日、選任日、乗務開始日、教育、適性診断、健康診断を一覧にすると、期限切れや記録の食い違いを早めに発見できます。
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巡回指導前に運転者ごとの教育・受診状況を整理します
教育記録や診断票が保管されていても、乗務員台帳、入社日、乗務開始日と照合すると、初任教育の対象者や適性診断の期限に漏れが見つかることがあります。
いしかわ行政書士事務所では、運転者ごとの資料を確認し、初任運転者への特別な指導、適性診断、一般教育、健康管理について、不足している記録と今後の管理方法を整理します。
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出典
国土交通省「運転者に対する教育」
国土交通省「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」
国土交通省「運転者の健康管理」
国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」
厚生労働省・岡山労働局「健康診断の種類及び報告義務」
愛知県トラック協会「各種帳票類ダウンロード」
この記事は、2026年8月時点の法令および公的機関の案内をもとに作成しています。運転者への指導・監督の内容、適性診断の対象・時期、健康診断の取扱いが改正された場合は記事の見直しが必要です。
