おひとりさまに遺言書は必要?自宅や財産を持つ方の判断ポイント

この記事は行政書士が監修しています。
いしかわ行政書士事務所の行政書士が、法令や公的機関の情報、実務をもとに、制度や手続きのポイントを分かりやすく解説します。

おひとりさま終活を考え始めると、「自分にも遺言書が必要なのだろうか」と迷うことがあります。

独身で子どもがいないからといって、すべての人に遺言書が必須というわけではありません。

一方で、自宅や土地を所有している方、財産を渡したい相手が決まっている方、兄弟姉妹や甥・姪が相続人になる方は、遺言書がないことで希望どおりに財産を引き継げない可能性があります。

遺言書が必要かどうかは、財産の多さではなく、「法律上の相続人」と「自分が財産を渡したい人」が一致しているかで判断します。

この記事では、おひとりさまが遺言書を作成した方がよいケースと、まだ急いで作らなくてもよいケースを解説します。

おひとりさまでも遺言書が必要とは限りません

遺言書を作らずに亡くなった場合、財産は法律で決められた相続人が引き継ぎます。

独身で子どもがいない方の場合、主に次の順番で相続人を確認します。

  • 両親や祖父母
  • 兄弟姉妹
  • 兄弟姉妹が先に亡くなっている場合の甥や姪

法律上の相続人に財産を引き継いでもらうことに問題がなく、財産の分け方についても特別な希望がなければ、直ちに遺言書が必要とは限りません。

たとえば、預金だけを所有しており、相続人となる兄弟姉妹全員へ法律上の割合で分けてもらえばよいと考えている場合です。

一方で、次のような希望がある場合は、遺言書を検討する必要性が高くなります。

  • 特定の兄弟姉妹や甥・姪へ自宅を残したい
  • 親族以外の友人や世話になった人へ財産を残したい
  • 兄弟姉妹には財産を渡したくない
  • 自宅を相続人全員の共有名義にしたくない
  • 自宅を売却し、代金を特定の人へ渡してほしい
  • 財産を団体などへ寄付したい
  • 手続きを進める遺言執行者を決めておきたい

「相続人がいるか」だけでなく、「その相続人へ、法律どおりに財産を渡してよいか」を確認することが判断の出発点です。

遺言書が必要かを判断する5つのポイント

次の5つを確認すると、自分に遺言書が必要か判断しやすくなります。

1.財産を渡したい人と法律上の相続人が同じか

最も重要な判断ポイントです。

法律上の相続人とは別の人へ財産を残したい場合は、原則として遺言書による準備が必要です。

たとえば、次のような人は、親しい関係であっても自動的に相続人にはなりません。

  • 友人や知人
  • 近所で世話になっている人
  • 婚姻届を提出していない内縁の相手
  • 介護や生活を手伝ってくれた人
  • 兄弟姉妹が存命である場合の甥や姪

「長年世話をしてくれたから、その人が財産を受け取れるだろう」と考えていても、遺言書がなければ希望どおりにならない可能性があります。

親族以外の人へ財産を渡す場合は、遺言書で「遺贈する」財産と相手を具体的に記載します。

2.自宅や土地を所有しているか

自宅や土地がある方は、預金だけの方よりも遺言書を検討する必要性が高くなります。

預金は金額に応じて分けられますが、不動産を物理的に分けることは簡単ではありません。

遺言書がない場合、相続人全員で次のような内容を話し合うことになります。

  • 誰が自宅を取得するか
  • 自宅を売却するか
  • 売却代金をどのように分けるか
  • 複数人の共有名義にするか
  • 売却まで誰が管理費や固定資産税を支払うか

兄弟姉妹や甥・姪が複数いる場合、自宅が全員の共有名義になることもあります。

共有名義になると、将来の売却、賃貸、大規模な修繕などについて、共有者間の調整が必要になります。

自宅を特定の人へ引き継いでほしい場合や、共有名義を避けたい場合は、遺言書で取得者を決めておく方法を検討します。

ただし、自宅を残したい相手が、本当に引き受けられるとは限りません。

固定資産税、修繕、家財整理、売却などの負担も説明し、事前に相手の意思を確認することが大切です。

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3.相続人が複数または疎遠ではないか

相続人が兄弟姉妹や甥・姪になる場合、相続人の人数が多くなることがあります。

先に亡くなった兄弟姉妹に複数の子どもがいれば、その甥や姪が相続人になる可能性があります。

次のような場合は、遺産分割の話合いに時間がかかることがあります。

  • 兄弟姉妹が複数いる
  • 先に亡くなった兄弟姉妹がいる
  • 甥や姪の人数や住所が分からない
  • 長年連絡を取っていない親族がいる
  • 相続人同士にも交流がない
  • 海外や遠方に住む相続人がいる

遺言書があれば、すべての話合いが不要になるとは限りません。

それでも、誰にどの財産を渡すかを明確にしておくことで、相続人が一から財産の分け方を決める負担を減らせます。

4.相続人へ財産を渡したくない事情があるか

親族と疎遠である、長年交流がない、特定の人へ財産を渡したくないという事情がある場合も、遺言書を検討します。

本人が「兄弟とは絶縁したつもり」と考えていても、それだけで法律上の相続権がなくなるわけではありません。

遺言書がなければ、疎遠な兄弟姉妹や、会ったことのない甥・姪が相続人になることがあります。

なお、兄弟姉妹や甥・姪には、原則として遺留分がありません。

遺留分とは、一定の相続人に認められた最低限の取り分です。

そのため、兄弟姉妹や甥・姪だけが相続人になるケースでは、遺言書によって別の人へ財産を残せる可能性があります。

一方、両親など遺留分を持つ相続人がいる場合は、その取り分を考慮して内容を検討する必要があります。

5.遺言内容を実行する人を決めておきたいか

遺言書に財産の行き先を書いても、預金の解約や不動産の名義変更が自動的に行われるわけではありません。

遺言書の内容を実現するために手続きを進める人を、遺言執行者といいます。

親族以外の人へ財産を残す場合や、自宅を売却して代金を渡してほしい場合は、遺言執行者を指定する必要性が高くなります。

遺言執行者には、主に次のような手続きを任せることがあります。

  • 相続人への遺言書の通知
  • 預貯金に関する手続き
  • 不動産の名義変更に必要な手配
  • 遺贈する財産の引渡し
  • 遺言内容に沿った財産の整理

ただし、遺言執行者を指定すれば、葬儀、納骨、公共料金の解約、家財整理などもすべて行ってもらえるとは限りません。

これらの死後の生活上の手続きは、死後事務委任契約などを別に検討します。

遺言書を急いで作らなくてもよいケース

次の条件に当てはまる場合は、すぐに遺言書を作成する必要性は比較的低いと考えられます。

  • 法律上の相続人が誰か分かっている
  • 法律上の相続人へ財産を渡すことに問題がない
  • 財産を法律上の割合で分けてもらえばよい
  • 自宅や分けにくい不動産を所有していない
  • 相続人同士の関係が良好である
  • 親族以外へ財産を残す希望がない

ただし、「今すぐ必要性が高くない」ことと、「何も確認しなくてよい」ことは同じではありません。

少なくとも、次の内容は整理しておきます。

  • 法律上の相続人は誰か
  • 預金や保険はどこにあるか
  • 借金や未払金はないか
  • 通帳や重要書類をどこに保管しているか
  • 自宅や土地の名義は誰か
  • 今後、財産を渡したい相手が変わる可能性はないか

財産や人間関係は変化します。

現在は遺言書が不要でも、自宅を購入した、親族が亡くなった、世話になった人へ財産を残したくなったといった場合は、改めて必要性を判断します。

遺言書でできることと、別に準備すること

遺言書は、おひとりさま終活のすべてを解決する書類ではありません。

主に、財産の引継ぎに関する希望を残すために使います。

遺言書で決められる主なこと

  • 自宅や預金を誰に渡すか
  • 親族以外の人へ財産を遺贈すること
  • 財産を団体などへ寄付すること
  • 自宅を特定の一人へ引き継がせること
  • 遺言執行者を指定すること

遺言書とは別に考えること

  • 入院時の手続きや緊急連絡
  • 判断能力が低下した後の財産管理
  • 葬儀や火葬
  • 納骨やお墓
  • 電気・ガス・水道などの解約
  • 自宅の鍵の管理
  • 家財や遺品の片付け
  • ペットの引渡し

判断能力が低下した後の財産管理には、任意後見契約や財産管理に関する契約などを検討します。

亡くなった後の生活上の手続きには、死後事務委任契約などを検討します。

遺言書は「財産を誰へ渡すか」、任意後見は「生前の判断能力が低下した後」、死後事務は「亡くなった後の生活上の手続き」と役割を分けて考えます。

よくある失敗は必要性だけ判断して内容を詰めていないこと

遺言書を作った方がよいと判断しても、内容や保管方法が不十分では、希望を実現できないことがあります。

終活ノートへ希望を書いただけ

終活ノートは、本人の気持ちや連絡先を伝えるためには役立ちます。

しかし、法律上有効な遺言書の要件を満たしていなければ、財産の行き先を決める効力は認められない可能性があります。

「姪に自宅を渡す」とだけ書いている

同じ名前の人がいる場合や、土地と建物の表示が不明確な場合は、誰にどの不動産を渡すのか判断できない可能性があります。

不動産は、登記事項証明書の記載に沿って特定します。

相手へ相談せず自宅を残している

自宅を受け取る人には、固定資産税、修繕、家財整理などの負担が生じます。

本人の感謝の気持ちが、相手にとって負担になる場合もあるため、事前に説明して意思を確認します。

遺言執行者を決めていない

親族以外への遺贈や、不動産の売却を含む遺言では、誰が手続きを進めるのかを決めておくことが重要です。

財産を受け取る人へ、すべての手続きを任せることが適切とは限りません。

遺言書を一度作ってそのままにしている

遺言書作成後に自宅を売却した、預金口座を解約した、受取人が先に亡くなったといった場合は、内容が現在の状況と合わなくなります。

財産や家族関係に変化があったときは、遺言書を見直します。

遺言書を作る前に確認する順番

遺言書が必要だと思っても、すぐに文章を書き始める必要はありません。

次の順番で整理すると、内容を決めやすくなります。

  1. 自分の法律上の相続人を確認する
  2. 自宅・預金・車・借金などを一覧にする
  3. 誰に何を残したいか決める
  4. 受け取る相手へ意思を確認する
  5. 遺留分を持つ相続人がいるか確認する
  6. 遺言執行者を誰にするか検討する
  7. 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにするか選ぶ

自筆証書遺言は、自分で作成できる遺言書です。

手軽に作成できる一方で、書き方の不備、内容が不明確になること、発見されないことなどに注意が必要です。

公正証書遺言は、公証人が関与して作成し、原本が公証役場で保管されます。

費用や手続きは必要ですが、自宅や土地を所有している場合、親族以外へ財産を残す場合、相続関係が複雑な場合などは、公正証書遺言を検討する方法があります。

遺言書は、本人が内容を理解し、自分の意思で判断できるうちに作成することが重要です。

体調や判断能力に不安が生じてから慌てて作るのではなく、内容を落ち着いて考えられる時期に準備します。

まとめ

おひとりさまだからといって、すべての人に遺言書が必要なわけではありません。

遺言書が必要かどうかは、主に次の5点で判断します。

  • 財産を渡したい人と法律上の相続人が同じか
  • 自宅や土地を所有しているか
  • 相続人が複数または疎遠ではないか
  • 相続人へ財産を渡したくない事情があるか
  • 遺言内容を実行する人を決めておきたいか

法律上の相続人へ、法律上の割合どおりに財産を渡して問題がなく、分けにくい不動産もなければ、遺言書を急いで作る必要性は比較的低いと考えられます。

一方、特定の甥や姪、友人、内縁の相手、世話になった人などへ財産を残したい場合や、自宅の共有を避けたい場合は、遺言書を検討する必要性が高くなります。

まずは、自分の相続人、所有している財産、財産を渡したい人の3点を書き出し、法律上の相続と自分の希望が一致しているか確認しましょう。

おひとりさまの遺言書作成について

いしかわ行政書士事務所では、愛知県三河地域(碧南市・西尾市・高浜市・安城市・刈谷市・岡崎市・豊田市・半田市など)を中心に、おひとりさまの遺言書作成に関するご相談に対応しています。

戸籍による相続人の確認、自宅・土地・預金などの財産整理、誰に何を残すかの確認、遺言書原案の作成、公正証書遺言の作成準備などを行います。

不動産の登記、相続税、相続人との争いなどが関係する場合は、司法書士、税理士、弁護士など、それぞれを担当する専門家と連携して進めます。

「遺言書が必要か分からない」「自宅だけ持っているが、誰に残すか決まっていない」という段階でもご相談いただけます。

おひとりさま終活をご検討中の方や、まずは相談してみたい方は、料金やご依頼の流れなどをまとめた「おひとりさま終活のご依頼案内」もご覧ください。

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