
川崎市で長年放置されていた遊覧船が、行政代執行によって解体・撤去されることになりました。
「行政代執行」という言葉は行政書士試験でも頻出ですが、条文だけではイメージしにくい制度です。今回の事例は、行政代執行がどのような場面で行われるのかを理解するうえで非常に参考になります。
約8年間放置されていた遊覧船
問題となったのは、かつて東京湾などで運航されていた遊覧船「アニバーサリークルーズ号」です。
船は川崎市の桟橋に係留されたまま長期間放置され、川崎市は所有者や運航会社に対して撤去を求め続けてきました。
しかし状況は改善されませんでした。
さらに、2025年2月には強風などの影響で浸水し、船体が大きく傾いて一部が沈没する状態となりました。
このまま放置すれば、周辺を航行する船舶の安全にも影響を及ぼすおそれが生じていました。
川崎市が行政代執行を実施
所有者側が撤去しないため、川崎市は行政代執行による強制撤去に踏み切りました。
撤去費用は約3300万円。
いったん川崎市が負担し、後に所有者へ請求する方針ですが、所有者とは連絡が取れない状態とされています。
なぜ行政代執行ができるのか
行政代執行とは、義務者が自ら行うべき作業を行わない場合に、行政庁が本人に代わって実現する制度です。
今回でいえば、
- 本来は所有者が船を撤去しなければならない
- しかし長年放置されていた
- 周囲の安全に影響が出るおそれがあった
という事情から、行政が代わりに撤去を行うことになりました。
これは行政代執行法が予定している典型的な場面です。
行政書士試験で押さえたいポイント
この事例から思い出したいのは、行政代執行の対象となるのは「代替的作為義務」であるという点です。
例えば、
- 違法建築物の除却
- 廃棄物の撤去
- 放置船舶の処分
などは、本人以外でも実行できるため行政代執行の対象になります。
一方、
- 税金の支払い
- 出頭義務
- 許可申請
などは本人しか行えないため、行政代執行の対象にはなりません。
今後は同様の事例が増える可能性も
記事では、全国で約5万6000隻のプレジャーボートが放置されていることも紹介されています。
所有者不明の船舶については、簡易代執行制度によって税金で撤去せざるを得ないケースもあり、空き家問題と同様に今後増加することが懸念されています。
放置された遊覧船に行政代執行 「危険がないとできない」は誤解?
このニュースを見て、
「船が沈みそうになって危険だから行政代執行ができたんだな」
と思った受験生も多いのではないでしょうか。
実は、この理解には少し注意が必要です。
行政代執行は「危険だから」行われる制度ではない
行政代執行法の目的は、
義務者が果たすべき義務を履行しない場合に、行政が代わってその義務を実現すること
です。
つまり、
- 船を撤去する義務がある
- 所有者が撤去しない
- 放置できない
- 行政が代わって撤去する
という仕組みです。
ポイント
行政代執行の要件に、
「生命や身体に危険が迫っていること」
は含まれていません。
今回の事例で危険性が重視された理由
もちろん、今回のニュースでは、
- 強風による浸水
- 船体の傾き
- 他の船舶への影響
などがありました。
そのため、
「このまま放置できない」
と判断され、行政代執行に踏み切ったものと思われます。
しかし、
これは
「危険だから行政代執行ができた」
というより、
「放置を続ければ公共の安全や港湾機能に支障が生じるため、行政が義務を実現した」
と理解する方が行政法の考え方に近いでしょう。
では、急迫した危険が必要な制度は?
急迫した危険への対応と聞いて思い出したいのが、
即時強制
です。
即時強制は、
- 火災の延焼防止
- 伝染病患者の隔離
- 災害時の立入禁止
など、緊急の危険を除去するために行われます。
ここが行政代執行との違いです。
受験生への一言
このニュースから、
「行政代執行=危険がないとできない」
と覚えてしまうと誤りです。
むしろ、
行政代執行は義務の実現
即時強制は急迫した危険への対応
という違いを意識すると、行政法の理解が一段深まります。
